3.遠II

僕の家は住宅が並ぶ1番奥に建っている。市街地に行く道は30メートルほど真っ直ぐ進まないと出られない。ごく普通のどこにでもある住宅街である。

萌の後ろにつき玄関から歩き、市道まで辿り着くとそこには高級そうな白いセダンが見えた。帰ってきた時にはなかったはず、普通の住宅街からはどう見ても浮いた存在であった。セダンを横切るときタクシーのように勝手にドアが開いた。萌も開く事がわかっていたかのように乗り込んだいった。躊躇している僕に

「乗って」と短く促す萌。

まだ事態が飲み込めていない僕だが断るとまた怒らせてしまうかもしれないし、もしかしたら集合場所まで送ってくれるのではないかと淡い期待もこめ仕方なしに乗り込んだ。高級車なだけあって車内は広く振動も少なく乗り心地は抜群だった。こんなに広い後部座席なのに萌はぎっちりと僕に距離を詰めて座っていた。小学生の頃のビデオ閲覧を少し思い出したがあの時は小学生だったし何も邪な思いは浮かばなかったが今はもう20歳となり大人の仲間入りを果たしたところだった。無論僕も例外なく男であるため、そういう経験手前までは行ったこともあるし、そういう映像には何度もお世話になっている。ましてや大人になった萌は前にもましてクールビューティーに育っており近くに寄られると余計意識しないようにするのが大変であった。相変わらず何を考えているかわからない表情でこちらをじっと見つめている。10分くらい経ち僕は

「どこに向かってるの?」と恐る恐る尋ねてみた。。

「私の家よ。お父さんやお母さんにも会わせるから」と何を当たり前のことを聞くのよっていう声色で答えてきた。

面識はあったもののなぜかこのタイミングなのかわからず戸惑った。昔から豪邸に住んでおりなんとなく金持ちなのかな?と子供ながらに思っていたが、前よりも豪華な家が目の前に建っており昔抱いた感想が確信に変わった瞬間であった。

萌父「やー、久しぶりだね。あの時はありがとう。萌とはこれからも末永頼むよ!」と固い握手で迎えられた。玄関にはこれまで海外で撮ったであろう写真がずらっと飾られていた。ところどころ映る萌はいつも機嫌が悪そうであったのが面白かった。後で揶揄ってみようとネタ収集した気分で内心ニヤニヤしていた。

玄関から離れる前に萌の振袖姿はあまりにも様になっていたのことと久しぶりの再会でまだ一枚も写真とか撮っていなかったことを思い出したため

「着替える前にさ成人式の記念に写真をとらない?」と声を掛けてみた。

それまで少し触れがたいオーラがあったのでで"何、そんな暇あるの?"とかで断られるかなと思ったが

「えっ!うん!お父さーん!早く戻ってきて!写真!100枚くらい!早く!絶対ミスはしないでね。。」と久しぶりなら明るさ全開の反応が返ってきて驚いた。

振袖の色は見るからな高そうな上品な濃い深い緑。そこにあまり見たことのないクリーム色の観葉植物のような葉と蔓模様。帯も控えめだが存在感を放つ模様は白と金を主体とした色合いのものを見に纏っていた。

2人で撮るのなんかケータイで充分なはずだが大袈裟な一眼レフカメラで3分くらいバシャバシャと撮られ続けた。僕の家がすっぽり収まるくらい大きいリビングに通されソファに座って待っているように促された。萌は着替えてくるといい別行動をとっていた。先に萌父が僕の前に座り

「あんなに笑ってはしゃぐのは本当に久しぶりなんだ。許してやってくれないか?」と宥められた。最初は連れてこられて少し困ったけど喜んでいる様子は伝わってきたし久しぶりに懐かしい気持ちになれたのでこちらも問題ないですというリアクションをとった。

遅れて萌母も萌父の横に座り変な構図が生まれた。30分、40分、50分と中々戻って来ない。 がしかし女性はこれくらい着替えに時間かかるものなのか?とも思ったし夜の集合にもまだ時間の余裕があったので萌の両親と談笑していた。1時間が経とうとした時、後ろから足音が聞こえ振り向いた。白い襟の付いたこれまた上品なネイビーのワンピースをしなやかに着こなしていた。先ほどは振袖姿だったためわからなかったが相変わらずぶつかったら折れそうな体型であった。小学生の時は萌の方が身長も高かったが今は160後半くらいか?僕の方が全然大きい。それでももっと身長が高く見えるくらいスラッとしていた。横に来ると車内と同じようにビッタリと僕にくっつき手も膝に乗せてきた。先程もだが意識しすぎて照れてしまうから控えて欲しい。

「お父さん、お母さん、海外出張の度、その期間が長く。ひたすらにあなた方を恨みました。心の底から恨みました。でもこうして日本に戻れて、また◯◯と再会させてくれて、約束も守っていただけて今とても幸せです。今までの事は許します。これから私と◯◯は認めてくれたよう結婚します。結婚して別の生活になるけど、過度な干渉は控えてください。何が合ってもまた◯◯が守ってくれるから。さっ◯◯行きましょ。」

全然行ってる意味がわからなかった。

唐突すぎて何を話しているのか飲み込めなかった。ケッコン?ん?

萌のご両親の方を向いても萌に向かって悪かったなぁ迷惑かけた。これからは好きにしなさいという顔をしている。萌父は立ち上がると僕の肩を叩き、萌母は萌と長い抱擁をし外に出ていった。

「萌、えっ?どういうこと?待ってくれ待ってくれ。僕たち結「うん!」婚するの?」被せ気味に返事が来た。

返事に困り、それでも何か言葉にしようと口を開こうとした瞬間。

「◯◯のご両親にはこれから説明するし、お金だってたくさんあるから平気。私これでも社長なの。あーでも大学はやめてもらうかな。変な女がちょっかい出してきても困るし、私も何するかわからないし。辞めて私の会社で私の専属秘書に就いて欲しいな。大丈夫、仕事中ずっと隣にいてカードゲームとかフィギュアとかプラモとか好きなことして暇つぶしてくれればいいから。◯◯昔から好きだもんなそういうの今も好きだもんね?あの時は自信なかったけど栄養系の資格からなんたらソムリエまでありとあらゆる食に関する資格取ったから料理もばっちしだし、家事も一通りできるし、むしろやりたいし心配することは何もないよ。ね?」

こちらが言い訳にしようとしたことを先回りされた。何も言えずに黙ってしまった。

空気が重い。それでも僕は話さなければならない。

「急すぎる。きゅ、急には無理だよ。びっくりした。ごめん。嬉しいし昔は好きな時もあったけど。今ももちろん大切な友達だよ!けど、、」と弁明を続けようとした時。萌を見るとさっきまでの興奮した面影はなく。この世の終わりかのような絶望した様相になり急に涙を流し始めたのである。あのいじめ発覚のときはどうにかしたい気持ちでたくさんだったが子供の頃とは違い、どうにかして欲しいのはこっちだという気持ちになった。俯かず、静かにこちらを真っ直ぐ見て大粒の涙を流していた。

自分でも最低だと思ったが、全てが急に動き、大事な事が勝手にどんどんと進んでいく事が怖くなった。それよりも彼女なら対する恐怖で心が埋め尽くされもう一度深々と謝り、家を飛び出した。

罪悪感と恐怖で気分は最悪であった。夜の同窓会に出席するなんて到底考えられず鳴り止まないケータイの電源を落とした。今は起きたこと全てを忘れたいと思った。いち早く離れたくてすぐにこの街を出て都内に戻ったいったのだった。。。

同窓会もバックレてしまい連絡が来て言い訳するのも、あの日のことを思い出すのも憚られたため連絡アプリを消し初期化した。リセットした。

成人の日の翌日、授業がない日だったため家にこもっていた。その翌日冬休み明け初登校。

周りは成人式で久しぶりに会った子をお持ち帰りしただの、会ったら可愛くなっててとか連絡先交換したとかそんな話ばかりであった。

そういう話を聞くたび、あの絶望した表情で涙を流す彼女を思い出す。脳裏から離れられず忘れられない。僕が悪かったのか?わからない。1人で困惑し、時には怒りも覚えるが結局悲しくなるし怖くなる。そんな日々が少し続いた。そしてその恐怖は過去の出来事のせいでもあるが僕は逃げられたのか?という懐疑的な思いから出てくるものに変わっていった。それはどこにいても視線を感じたし、非通知の電話が決まった時間に複数回かかってくるし、ポストもパンパンだし部屋の雰囲気もほんの少し変わった気もするし僕は逃げ切るどころか飼われていたのとら何ら変わらない。

ある土曜日の夜中。ガチャリと音がして目が覚めた。予感はしていた。していたし既に抵抗する気力もなく受け入れざるを得ない精神に追い詰められていた。今度は私の目をじっと見つめ立っていた。

「また、会えたね。待っててくれてありがとう。」

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