2.遠


成人式を控えた前日の夜

小学生の頃をふと思い出した。

クラスが1学年に3クラスしかなかったため全員の顔と名前くらいはなんとなくら把握していた。2年生の夏休み明け、まだまだ外は暑くプールの授業が終わってしまったことを僕を含め多くの生徒達は不平不満に思っていたであろう。学期初めは学年ごとの一斉下校と決まっていたためぞろぞろと校庭に生徒達が出てくる。僕のクラスは早く帰りの会が終わったため他のクラスを待っていた。各々集合場所付近で走り回ったり、ジャングルジムに登ったりと自由奔放にしている中僕は街調べという地元について図書館や地域新聞、市役所等へ向かい調べるという夏休みの宿題をすっぽかしており、担任に呼ばれ職員室に向かっていた。怒られることが確定していたため気分は最悪であったことを覚えてる。トボトボと歩いていると職員室横の掲示板をものすごい近い距離で食い入るように見入っている背の高い真っ黒のキノコヘアの女の子がそこにはいた。とても横顔が綺麗で見惚れてしまった。帽子の色が同じなので学年は同じなはずだがこんなに綺麗な子がいれば争奪戦になること間違いなしだが一度も騒がれたこともないし僕自身見覚えがなかった。名前もわからなかったためそのまま職員室のドアをノックし入室した。

僕の担任はこの時代にはそぐわない昭和雰囲気をまとった先生であった。厳しいけど人情身のある先生だ。

「野球とプールとゲームと祭りと遊びって随分とこらまた夏休み楽しんだみたいだなぁ、おい。他の宿題はやってんのになんでこれだけやってねぇんだ?」

正直、街調査はすごくやりたい宿題であった。

しかしみんなと被るのが嫌で考えすぎて時間がなくなってしまったのが事実であった。信じてくれそうもないのでそのまま黙っていた。

「お咎めなしってのはなぁ、んーそうだなー」と考えている時に他のクラスの担任が帰りの会が終わったのだろう職員室に戻ってきた。後ろにはさっき職員室横に立っていたあの子もいた。

「お疲れ様ですー、あっこの子です。朝連絡してました、転入生の井之頭 萌ちゃん」

と思わぬところで名前を知った。緊張しているのか、でもそれにしては落ち着きすぎている、それくらい自己紹介を促されても無反応であった。

担任は閃いたように

「そうだ!クラスは違うけど、井之頭さんに1ヶ月間毎週2回街案内してやれ!それで街調査の宿題クリアとしよう!」

「えーー遊べねぇーじゃん」

と文句を行ったがデコピンを食らった。

しかし内心すごく嬉しかったのも覚えている。子供ながら一目惚れした子と仲良くなるきっかけができたしアピールできたらなぁとうきうきしていた。

井之頭さんの担任もいい考えですねと頷いて

その宿題が決まった。肝心の井之頭さんはちょこんと頷きこちらにもぺこりと頭を下げ職員室を2人で出た。気まずさと幼さながら

「女なのに髪短いしきのこ頭だなーおもしれぇー」と下手くそな会話をしたのを覚えている今思い出しても小っ恥ずかしい。

「あっそ、イガグリ頭くんあんたの名前は?」

とさっきまでともイメージとも違うツンケンな反応に気押された。

小学生の時の思い出でこの出会いを思い出すのには色々と理由がある。

まずは一目惚れしたこと、相手にされなかったこと、萌が転校したこと、また5年の時帰ってきたこと、バレンタイン貰ったこと、6年のときの事件、中学から別で今まで唯一どう言う進路を進んだか不明なこと。

街調査で仲良くなり好かれるためこっちは全力でバカをやった。面白い=笑う=好意という単純方程式だ。小学生なんて運動が出来るやつがモテるし面白いやつは人気者。後者路線を子供の頃から僕は歩んできた。萌に対して色々試したが

「まじめにやって」

「意味がわかんない」

「手を動かして」

と怒られ相手にされずにいた。基本僕は自転車だったが萌は祖母が車で集合場所まで送り、帰りましょうの放送後に父親がまた車で迎えに来ていた。街調べ最後の日、時間が余ったのでビデオ視聴室でアニメを見たいと僕が言ったら意外にも賛同してくれた。一つのモニター対して二つ椅子があるが大人用のため大きく一つの椅子に2人で並んで座った。僕はドキドキしてあまり内容が入ってこなかった。アニメをじっと見ている彼女の横顔をみてきっと話しかけられたくないからビデオに賛同したのだろうとネガティブな気持ちになったことも覚えている。

クラスも違うため関わることが少なかった。

それでも他のやつらよりも仲良くなっていたし案の定モテモテだったため優越感はあった。

掃除中突然彼女が僕を呼び出した。

えっ!告白?うそうそー!と舞い上がっていたのも束の間。

「3年生に一緒になれない」と一言。それは"転校"というもののせいらしい。が最初転校の意味もわからず、そうなんだと上の空のリアクションをした。それは悲しむとかではなく単純に告白じゃないことにガッカリしただけであった。萌が言った意味がわかったのは3年生の1学期クラス発表の時だ。前日に仲良い人たちと同じクラスになれるといいななどワクワクで布団に入ったにもかからわず。萌ちゃんの姿はもちろん、名前も掲載されていなかった。。。その日の夜は密かに落ち込んだ。

時が少し経ち5年生冬休み前、クラス宿題ノートを職員室に運んでいると見覚えのある女の子が立っていた。向こうもこちらを見ると

「久しぶり」と声を掛けてくれた。

色白でインドアなイメージだったが焼けており昔よりもハツラツな感じがした。

高学年にもなれば女の子と遊んでる、話してる=ださい、恥ずかしいなどの感情が生まれる。

それでも僕は

「萌!久しぶり!俺さ!あの時転校の意味がわかんなくてさー、ちゃんとバイバイ出来なくてさ。もう2度と会えないかと思って悲しかったよ!会えてよかった!」と恥ずかしげもなく伝えた。

目を向けると彼女は下を向きながらボソボソと何かを呟いていた。両親の仕事の都合で付き添い東南アジアに住んでいたらしい。年がら年中外で遊んでいる僕ら、くらいこんがり焼けていた理由がわかった。

冬休みに引っ越しの手伝いという名目で遊びに行った。彼女の父親も僕の事を覚えていてくれて最初緊張したけれども楽しかったのを覚えている。学校が始まりクラスも同じになった。しかし男子だけで遊んだりすることが多くあまり萌ちゃんはおろか女子と連まない日々が5年生では当たり前になりつつあった。だからこそ萌からのバレンタインチョコは衝撃的だった。初めて自分の母親以外からバレンタインにチョコを貰ったのだ。くれた本人はすごい早口で何かを言っていたが、とりあえず義理のようなものだと僕は理解したがとにかくすごい照れたのを覚えている。もちろん親にバレて家では冷やかされ顔を真っ赤にしたのを覚えている。元からとっつきにくいところもあったし小学2年生のときの好き補正もあっただろうけど僕は少なくとも仲良しの友達という認識であった。小学生の3年間はあまりにも長く、好きな子なんてコロコロ変わるし、仲の良いやつもコロコロ変わる。萌が以前仲良かったメンバーもとっくに萌の事なんか忘れていた。新しく女子の輪に入るのが難しいからか男子メンバーの輪にいつも入りたがり放課後僕を通して輪の中に入って遊んでいた。東南アジアで鍛えた?のか足腰も強く、中々スポーツが上手く男子からはすごく人気であった。それに虫とか、爬虫類とかも海外の方が強烈なようで素手でさわったり肩に乗せたり下手な男子よりも逞しい一面だらけであった。

そんな平和な生活で終わるものだと思っていたが6年生になりしばらくして事件が起きた。男子は薄々勘づいていた。それは萌が一軍女子とその女子と仲の良い一軍の男子から虐められているということだ。僕を通して入って遊んでいた男子メンツの中には僕含めそんな最低な奴らはいない。とある放課後用事があるため遊ばず真っ直ぐ帰ろうとしたところ普段と明らかに様子がおかしい萌を見かけた。

「どうしたの?」と慌てて駆け寄る。

反応はなく肩が揺れる。泣いているのだとわかった。

長い時間顔を隠し蹲って泣いている。

用事があったが泣き止むか顔が上がるまでここを離れられないと思い声をひたすら掛けて時を待った。帰りの放送が地域に鳴り渡ったとき、萌はようやくら何があったか嗚咽混じりにポツポツと話してくれた。僕はもう親に怒られること確定だったがこっちの方が重要であると思い、萌を家まで送り届け彼女の両親に引き渡した。母親が萌を抱き抱え家の中に入っていった。引き渡し帰ろうとした時父親に呼び止められた。僕は萌から聞いたこと、最近そういう予兆があったこと、助けてあげれなかったことを全て話した。その時の萌のお父さんの顔が怖かった。話していて僕も途中で涙が流した。僕も怒られるのではないかと思ったけれど正直に何もできなかったことを悔いて謝った。萌のお父さんは僕を家まで送り両親にお礼と遅くなった理由や小難しい話をしていた。両親からは怒られず今日はもう寝なさいとだけ言われたのを覚えている。虐めは最初女子側から始まったらしい。男子と遊んでいることと一軍女子の好きな男子が萌のことが好きということが原因らしい。一軍男子も面白がり加わって暴力こそないが物を壊されたり、隠されたり、虫が好きなんだろ?等無理矢理口や服につけられたり無視したり。聞いていて残酷で腹が立つものばかりであった。僕らの前でそんな顔しなかったり相談しなかったのは、それを言うと僕らからもハブられたり僕らもそれに加わると思ったかららしい。事実、うっすら感じ取っていた時に助けてあげることができなかった。

きっと僕が萌の両親に伝えた夜に萌の両親から学校に対して事情を電話していたのであろう。しかし僕はそんなの関係なしに翌朝ホームルーム前に主犯格の女子には特大の虫と主犯格の男子には拳をぶつけていた。僕はその後どの方面からも怒られた。ただ両親はそんなに怒ってなかった。やり返し方とタイミングが悪かったな。とそれだけであった。あとは大人同士が色んな話し合いをしてことが過ぎていった。

しばらく萌は来なかった。それからも少し来ては他教室で授業を受け親が迎えにくるなどと一緒に遊べることや話せることがなく卒業式を迎えた。卒業式は50音順で,席が決まっているがそういった事情もあり50音最後の僕の隣に座っていた。僕の萌との最後の記憶だ。式中は厳かな雰囲気もあり話せなかった。

「私また、遠くに行くの。でもまた会いにくるから。5年生の時覚えててくれて、仲間に入れてくれてすごく嬉しかった。意地悪から孤独から助けてくれてありがとう。いつか助けられるように。がんばるから。ずっと覚えていてくれる?私はずっと忘れないから。離れ離れになっても必ず会えるから。待っててね。絶対。」ととてもせつない小さな声で萌が語りかけてきた。

「もちろん。忘れないよ。小学2年のときはキノコ頭とか言ってごめん。街調査もちゃんとやらんくて怒られたしははは。ちゃんと助けてあげられなくてごめんね。もっとかっこよくなってもっと俺も強くなって萌のこと守れるようになるから!」ニコっと横を向いて最後の会話を終え僕達は卒業した。

中学は地元に進学。ヤンチャ坊主だった僕だが中3の時にはシュッと決めて真面目に勉強やら部活やらに打ち込んだ。高校は県内でも有名な進学校しかも男子校に進んだ。そして現在は都内に一人で暮らしをして大学に通っている。地元を出て2年。ほとんど実家には帰っておらず久しぶりの帰郷であった。中学卒業から地元のメンツとはほとんど顔も合わせず連絡も取らずだったため再開に胸を躍らせていた。

成人式の朝、僕はスーツ派のためパリッと決めて鏡を覗く。都会風吹かせて調子に乗ってやるかぁ!とウキウキの気分で自宅のドアを開け外へ出た。会場に着くと当時仲良かった面々が沢山話しかけてきてくれた。女子とは中学でもあまり話さなかったため親しい人はいないそのため男子のいつメンと遠目から、"あー〇〇だ変わらないな!もあればえー変わったなあいつ!もあればえっ?もうママなの?とかそういう話で勝手に盛り上がっていた。この地元は比較的不良が少ないため成人式に市長らが話していても誰も騒ぎ立てたり邪魔したりしない。外では派手好きが騒いだり、はっちゃけた輩もいたが良くニュースで見かけるほどではない。式中に小学校が同じだった女子達に話しかけられた。僕はもともと式に参加して都内に戻ろうと思っていたため、打ち上げとかも参加しないつもりだった、そもそも誘われていなかったがどうやら来れるならどうか?との誘いだったらしい。いつメンも小学校が同じのため中学ではなくこちらに参加するようだ。顔出すくらいの気持ちで承諾した。いつメンからは

「お前を地元で見かけないからみんな驚いてるんだよ、なんだかんだ1番変わったよお前が。めっちゃ男前になったしさ、女の子もきゃーきゃー言ってるぜ」と冷やかされた。冷やかされたものの調子乗っての都会風がうまく働いているということに内心少し嬉しかった。式が終わりいつメンらと写真を撮りあっていると先程の女子達もこちらへ来て写真を撮る事となった。正直あまり覚えていなかったがまぁ一生に一度だしなと思い楽しみこととした。一旦家に帰り着替えようと家に着くと田舎に似つかわしくない綺麗な振袖を着た黒髪マッシュルームヘアが玄関前に立って人を待っているようであった。僕に気づいたその子は慣れない履き物に気をつけ走り寄ってきた。身に覚えがないが僕に向かってきてるのか?、、

そんな思いも束の間

ガシッと掴まれギューーとされた。

「迎えに来たよ?」

「あっもしかして井之頭さん?」

「え???ん??」

「いやー久しぶり!元気だった?どれくらいぶりだっけか笑」

「違う違う。久しぶりだから照れてるのかな?前みたいに名前で呼んでよね。」と晴れ舞台かつ久しぶりの再会なのに何故か少し怒っているし話も噛み合っていなかった。

「えっあーなんか照れちゃってさ、ははは

それより成人式来てた?いつメンとか全然変わってなかったよ」

「誤魔化さないで欲しいな。名前で呼んで。あと別にみんなのことはずっと視てたから(監視)別にいいかな。元々興味も無いし。あと◯◯くんと直接ちゃんと会って話すのは小学校の卒業式ぶりだよ、2856日と12時間21分くらいかな。もちろん中学から今までの◯◯の行動を1番追ってたけどね。式の後ゴミと写真撮った?抱きついた時臭ったよ。他にも中学からこれまで数えきれないほど許されない事をしていたけどまぁそれはおいおい罰を与えるとして、久しぶりに会えて本当に嬉しい。生はやばい。気を抜くと私どうにかなりそう。ほんとにやっと迎えに来れた。これからはずっーと一緒だからね。」

たまに出る超早口口調だ。とりあえず名前で呼ばないとな。なんかまずそうだな。

「萌、久しぶり!」ニコッ!

「そういうとこ、そういうとこがずるい、初めて会った時からやたら話しかけてきて無視しても突き放しても話しかけてきて。私のこと好きなのかなって思って段々とドキドキが高まって私も好きになっていったのに、アプローチされないし。2人きりであんなにくっついてビデオ見てても無言だし、転校告げても何もないし。こっちの勘違いだと思ってたらなんだか悲しくなったし。でも転校してもずっと覚えててくれたり、また遊んでくれたり、助けられたり、仇打ってくれたり。貴方はもう。なんて。そんな素敵な笑顔で名前なんて呼ばれたら、私、私、うぅ。はぅ。やばっ。ふー。はぁやっぱ私のヒーローだぁ。」下を向いてぶつぶつ言っている。これも昔からの癖だ、やはり変わっていない。干渉に浸っているも、集まりのことを思い出す。

「あっそうだこれから、小学校の集まりでみんなで酒飲むらしいんだ。既に誘われてる?俺も今日急に誘われてさ、飛び入り参戦なんだよね。誘われてなかったらよかったら井之、、萌も一緒にいく?聞いてみるよ」

「意味わかんない。意味わかんない。意味わかんない。だれ?最初に声かけてきたやつ。だれ?教えて。◯◯くん昔から優しいし断れないんもんね、◯◯くんの事だからきっと式終わったら都内に戻る計画を立ててたはずなのに。新渡戸か?飯沼か?安西か?雪村とかなら確実に◯刑だなぁ。」いつメンの名前を読み上げていた。

「細木さん(女子)と城前(女子)さんが誘ってくれたんだ〜覚えられてて嬉しかったよ。」僕は余計な一言をさらに付け加えてしまったらしい。

萌の顔が般若になり、身から出るオーラは辺りの生物の行動を止めるほどの圧が出ていた。

身構える僕を見るなりその怒りを収めた。

「まぁ、いいよ。とりあえずさちょっとだけ着いてきてよ。ね?」となぜか少しついていく羽目になった。。。



続く。


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