②渦

僕は意を決して、なけなしの千円を入れ、青いボタンを押して受話器を取った。

プルルル。プルルル。ガチャッ。

「お電話ありがとうございます。青いボタンを選択したんですね。」

「はい。」

「それでは単刀直入に発表しますね。」

発表とは仰々しいと思ったが、一刻も早く知りたいので突っ込まないでおく。

「あなたが恋してる人の好きな人は、、、あなたの親友です。残念ながら。」


そこからどうやって家に帰ったのかは覚えていない。きちんと電話を切ったのかも怪しい。気づけばご飯を食べて風呂にも入っていた。ベッドに入るまでの記憶はない。けれど、それまでずっと目が半開きだったのに、ベッドに入った途端なぜか目が覚めた。心の中には黒い感情が渦巻いていた。それは憎しみか嫉妬か、よく分からなかった。けれどこのままでは良くない。そう僕の直感が告げていたため、彼にLINEを送った。

「明日、放課後部活休みだと思うんだけど、少しお茶しない?」

「いいよー」

すぐに返事が返ってきた。

なんだか少し心が軽くなった気がして、気がつくと瞼が閉じていた。


翌日、僕たちは学校から少し離れた喫茶店に来ていた。何て言おうか迷ってる内にここまできてしまった。

「それで、今日はどうしたの?」

親友に全てを告げようと思ったが、そうすると未来が変わって親友の恋路の妨げになってしまうかもしれない。彼に話すことは自分のためでしかない。それにきっと何も言わなくてもうまくいくだろう。衝動で少し開いた口を静かに噤んだ。そして代わりに、

「いや、高校のレギュラーってどんな感じなのかなって。」

とだけ告げる。僕は彼とこのままずっと親友でいたい。その想いを胸に、電話の件は奥底にしまった。


その後、僕は彼女との恋は諦めた。あのまま知らずに頑張っていれば、もしかすると付き合えていたのかもしれない。ただ僕にとって、あの電話から放たれた無機質な一言は諦める要因としては十分だった。


その一方で親友との仲は深まって、もはや深友だった。そして二年生になって主力の三年生が引退した六月、彼は僕に好きな人を告げた。さすが親友。彼は女性の好みも僕と同じだった。

僕はもちろん彼を応援し、その甲斐あって最終的に二人は付き合い、結婚した。これは余談だが、結婚式のスピーチで流した涙は、親友への感謝や単純な感動だけではなかったと思う。その後も彼との交流は続いた。僕が彼の恋を後押ししたことをすごく感謝しているらしい。


「やあ、調子はどうだい?」

彼は今日も優しく、元気な声で話しかけてきた。八十歳になった今でも、僕は彼とよく会っている。

「ずいぶんいいよ。あんたさんのおかげでな。」

そう言って笑う僕の顔には友情の皺が刻まれている。


彼とは心友になっていた。



〜②親友との絆〜 END


(9ページにあとがきあり)

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