①虚
僕は意を決して、扉を開けて、不気味な公衆電話を飛び出した。
ドクン。ドクン。心臓が大きく脈を打っている。外に出た私は事が終わってみると、なんだかあの会話が夢のようで実感が湧いてこない。浮ついた気持ちでとぼとぼと歩いていると、気づけば家の前にいた。
ベッドに入った後もあまり眠れなかった。
次の日、僕はやはり気になってまたそこを訪れた。しかしそこには何もなかった。まるで雪が溶けてしまったように。
それ以降、僕はある後悔の念に取り憑かれた。あの時、受話器を取っていれば、お金を入れていれば、、、。その考えが頭から離れなかった。
忘れようと思っても忘れられず、少し記憶が薄まってきたと思ったらあの時の鮮明な夢をみる。そのせいで部活に身が入らず、二年生になるタイミングで結局辞めてしまった。成績も下がっていたので勉強に専念しようとしたが、それにも打ち込めない。
虚な目をしていた僕は放課後、校舎をぶらつくのが日課になっていた。ある日いつも通り適当に歩いていると、袴姿で華麗にお茶を点てている男の人が目に入った。なぜかその動作に惹かれ、一挙手一投足に目が離せなくなっていた。彼がお茶を点て終わった時にはこの部に入ることを決心していた。
結果、この選択は僕の人生を大きく変えた。茶道を通して心が清められ、かなり勉強にも身が入ったことでいい大学に入れたからだ。
そして、今日は入学式。親友とも、好き「だった」人とも違う大学だが、ここでまた新しく頑張ってみようと思う。
大学でも茶道部に入ろうと決めていた僕は入学式が終わると部室へと向かう。近づいていくと心静まる音が聴こえてきた。中を覗くと、一人の女性が凛とした佇まいでお茶を点てているところだった。その姿は正に芸術の域に達している。
外で咲き誇る桜並木は、ピンク色に染まっていた。
〜①新しい恋〜 END
(9ページにあとがきあり)
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