試行錯誤編

「うーん、謎を解けって言われても……困っチョったなぁ」


 町田探偵は頭をかきながら、もう一度部屋の中を確認してみた。


 まず、部屋は窓がなく、真っ白い壁に囲まれている。コンコンと軽く叩いてみたが、当然びくともしない。耳を当ててみたが、外部の音は聞こえない。つまり、ここがどこなのかもわからない。


 次に、天井を見上げてみる。空調用の穴が開いているが、届く高さではない。つまり上から脱出するのは不可能。


「困っチョ困っチョ」


 白いソファに腰を下ろすと、サイドテーブルの上に置かれた箱が目に入った。4桁のダイヤル式の鍵がついていて、数字は「0000」になっていた。これはおそらくある数字を入れると箱が開く仕組みになっているのだろうな、と町田探偵は思ったが、その数字が何なのかわからないので、箱には手をつけないでおいた。


 右の壁を見ると、白いキャンバスにピンク、緑、茶色で塗られた絵画がかけてあった。その色を見ながら、町田探偵は思った。


「ピンクはイチゴ味……緑は抹茶……茶色はチョコレートかな……うーん、どの味もおいしいから迷っちゃうな」


 町田探偵は色をプロテインの味に変換して、次のプロテインは何味を買おうかなと思いを巡らせていた。ちなみに彼が好きなプロテインの色は赤。みんながクソ不味いという「ハバネロ味」だ。


 プロテインの絵(そもそも絵画はプロテインを表しているわけではない)の反対側には、鹿の剥製が飾られてある。これを持ち上げてどかすと、壁にヒントになるアイテムが張り付いてある……というのがよくあるパターンだが、町田探偵はあまりにもリアルにできた鹿の剥製がこちらを見つめているものだから、怖くて近づけなかった。


 最後に目にしたのは、真正面にある扉。この部屋のすべての謎を解き、鍵を手に入れられれば脱出することができるのだ。


 鍵……か。こんなとき、怪盗Mだったら鍵なんか使わなくても脱出できるんだろうな……。町田探偵は不意に、怪盗Mのことを思い出した。そして彼は閃いてしまったのである。


筋肉真実はいつも、パンプ・アップひとつ!」


 ムキっ! と彼はモストマスキュラーのポーズを取った。誰も見ていないのだが、自分の気持ちを高揚させるためである。

「そうだ! 俺も怪盗Mになればいいんだ!」


 フンフンフフーン! と鼻歌を歌いながら、町田探偵は謎なんて見向きもしないで扉の前に立った。



「怪盗MのMはマッチョのM〜、マッスルのM〜、そして筋肉のM〜!」



 訳のわからない鼻歌に歌詞をつけて、彼は右手でドアノブをギュッと掴んだ。そして……。


「ふぬぬぬぬぬぬぅ!」

 鍵のかかった扉を全力で開けにかかったのだ。


 当然、ガチャ、ガチャと音を立てるが、ドアノブはびくともしない。それでも町田探偵は力を込めてドアノブを回し続ける。


「うおおおおおおおぉ!」

 顔が紅潮し、額に血管が浮き出る。右腕がプルプルと震え始め、上腕二頭筋が盛り上がる。すると、これまで全く動かなかったドアノブが少しずつ動き始めたのだ。


「マッ……スルゥゥゥ!」



 バキン!



 なんとあまりの怪力にドアノブが破壊されてしまったのだ。町田探偵は右手に掴んだままの壊れたドアノブを見て、その場に呆然と立ち尽くしていた。

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