提案編

「それで、雄三警部。怪盗Mからプロテインを守る方法とは……?」

 萌花ちゃんが自信満々な雄三警部に尋ねる。


「その前に……」と、雄三警部は町田探偵の方を向いた。

「町田探偵。この事務所内にあるプロテインは全部持ってきてもらえませんか?」


「え? えっと……ちょっと待っててくれ」


 町田探偵は慌てて、自分の机の引き出しの中、本棚の後ろ、冷蔵庫の中、食器棚の上の扉の中……などなど、いろいろなところを開けて、それぞれに置いてあったプロテインの袋を取り出した。「え、そんなところにまで隠してあったんですか?」と萌花ちゃんも驚いていた。



「もう、町田さん! プロテインの持ち込みは一袋使い終えてからっていってるじゃありませんか!」

「はっはっは、ごめん! どうしてもたくさんプロテインがないと落ち着かなくてね!」

「そんなだから依頼に来たお客さんがビビって帰っちゃうんじゃないですか!」

「だろ? だからこうしてちゃんと目につかないところに隠してあるという訳なんだ!」



 机の上に所狭しと並べられたプロテインは合計14袋。モカ味にストロベリー味、バナナ味に、キャラメル味……と様々だった。

 雄三警部はそれらをじっくりと眺めた。


「なかなかの量がありますが……怪盗Mなら全て奪い去っていくんでしょうね」

「そうかもしれんなぁ。で、雄三警部のいう怪盗Mからプロテインを守る方法とは?」


 町田探偵の問いに、雄三警部は笑顔で答えた。


「簡単なことです。日付が変わるまでに……っていうか、今すぐ、このプロテインを全て警察署へ移動させればいいんです」

「警察署へ……移動?」


 ええ、と雄三警部はうなづく。


「怪盗Mはプロテインを全て盗みに来ると言っているわけです。だったら、そのプロテインが全てなければ、盗むものもないというわけです」


「おお!」

 萌花ちゃんがなるほど! と相槌を打つ。「それはいいアイデアです、さすが雄三警部!」


 萌花ちゃんに褒められて、雄三警部も満更ではない顔をする。


「し、しかし! そんなことをすると怪盗Mが警察署に来るかもしれんぞ!」

「来ませんよ。だって町田探偵事務所に予告状を送っている訳ですから。警察署にあるプロテインを盗み出しても何の意味もありません」


 冷静に雄三警部は言葉を紡ぎ出していく。さすがに今回は寝袋の中で14袋ものプロテインを抱えて眠るわけにはいかない。町田探偵も、雄三警部の提案に賛成しないわけにはいかなかった。


「だ、だが!」

「まだ何かあるんですか? 町田さん!」

 何か言いたげな町田探偵に萌花ちゃんが口を挟む。


「この……この限定ハバネロ味のプロテインだけは腹の中に入れていてもいいか? これだけは何があっても盗まれるわけにはいかないんだ!」


 何ですかハバネロ味のプロテインって……。萌花ちゃんはドン引きしていたが、雄三警部は首を横に振った。


「ダメです。たとえクッソまずいプロテイン一つでも盗まれるわけにはいきません。それも、持っていきます」

「そんなぁ」


 というわけで町田探偵事務所から全てのプロテインが警察署へと持っていかれたのであった。


 そして夜が訪れたが、結局、怪盗Mは町田探偵事務所に姿を見せることはなかった。

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