後始末編

 結果から先に言うと、怪盗Mは深夜に誰にもばれずにこっそりやってきた。

 そしてどうやったのかはわからないが、ガラスケースに納められたプロテインを持ち去っていったのだった。


「はじめまして、町田探偵。まさか君みたいな凄腕が待ち構えているとは思わなかった。残念だが、コーラル・ザ・ファイアは諦めて、代わりにこのプロテインをもらっていくことにする。君とはこれから先も長い付き合いになりそうだ、どうぞ仲良くしてくれたまえ」というメッセージを残して。



 翌朝。

「おお、町田探偵、やりましたね!」

 ガラスケースの中に残された手紙を見て、雄三警部が喜びの声を上げる。


「怪盗Mは『コーラル・ザ・ファイア』を見つけることができず、プロテインを持ち帰った!」と、これには美術館のオーナーである露狩さんも喜んだ。


 ちなみに、萌花ちゃんは町田探偵が眠った時点で自宅へ帰り、今日は事務所に出社するとのことで現場には来ていない。

 が、もちろんこれで万々歳というわけにはいかなかったのだ。



「う……もう朝か?」


 雄三警部と露狩オーナーの喜ぶ声で、町田探偵は目を覚ました。もちろん寝袋のジッパーはしっかりと締まったままだ。もぞもぞと内側からジッパーを開けようとして……町田探偵の手はそこで止まった。


「……どうしました? 町田探偵。もう寝袋から出てきて大丈夫ですよ!」

「いや……それが……その……」


 なんとも歯切れの悪い町田探偵。本来ならツッコミ役の萌花ちゃんが何かいうのだが、残念ながら今は不在。雄三警部が代わりに尋ねる。


「ジッパーが壊れましたか? お手伝いしますよ!」

「いや! いいんだ! もう少し寝ようと思って」

「何言ってるんですか! ほら、宝石も元に戻さないといけないし!」

「あっ、こら! やめるんだ雄三警部!」


 無理やり外から雄三警部が寝袋を引き剥がす。なぜか町田探偵は抵抗して寝袋から出ないようにする。両腕もすっぽり寝袋の中に入れている町田探偵は、マッチョだが力がうまく入らなかったようで、やがて引きずり出された。


「ああああっ!」

「まさか!」


 寝袋から出てきた……いや、無理やり出された町田探偵の姿を見て、雄三警部と露狩さんが叫んだ。


「ほ……宝石が粉々になっている!」

「な……なんということだ……」


 町田探偵は頭をかきながら答えた。


「取られないようにと思って、お腹のあたりに置いてぎゅっと抱きしめていたんだが………朝起きたらこういう状態になってまして……てへ」



 マッチョマッチョマッチョ



「で、結局宝石は偽物。全ては露狩オーナーの虚言だったってことですか」

「そういうわけだ。まあ、そこまで見抜いた上での、作戦だったってわけだ」

「嘘ばっかり」


 町田探偵事務所で町田探偵と萌花ちゃんがコーヒーを飲みながら、そんな会話をしていた。


「怪盗Mに目をつけられれば、宝石の価値も上がる。盗まれても偽物だから大した実害はないし、怪盗Mがやってきた部屋として客を呼び込める……と踏んだらしいんだがね」

「それにしても……」


 一通りの話を聞いた上で、萌花ちゃんが一つの疑問を抱いたのだった。


「プロテインを盗み出して、丁寧に手紙まで書いていった怪盗Mは一体何者だったんでしょうね? それも露狩オーナーがしたことだったんですか?」


 町田探偵はさあね? 肩をすくめて両手を上げた。


「そこはね、彼も否定していたんだ。本当かどうかわからないけどね」

「へぇ。怪盗M……もしかしたら、どこかで会う機会があるかもしれませんね!」


 そうだね、と町田探偵はタンクトップから見える上腕二頭筋を軽く曲げながらポーズを決めた。

「その時は、また俺が怪盗Mのたくらみを阻止してみせるさ! 筋肉はいつもパンプ・アップ!」


 <怪盗Mと狙われた宝石 完>

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