解決編

「それ、小説のネタをそのままパクってるじゃないですか……しかも警察官に化けているっていうこと自体が、怪盗が準備したネタだし! あの小説では怪盗は探偵に化けていたじゃないですか!」

 萌花ちゃんの全力ツッコミに、一同は騒然とする。


「ってことは……犯人は町田探偵?」と雄三警部。

「なんと! 犯行時刻前に姿を現すとは……!」露狩さんは恐怖のあまり一歩後ずさりする。



「ちょっとマッチョ待ってくださいよ! 俺が犯人なわけないでしょう。その証拠に……ほら!」



 町田探偵は自らの身の潔白を示そうと、長袖Tシャツをいそいそと脱ぎ始めた。そして上半身ムキムキマッチョな姿になると、自信満々に言った。


「みてくださいよ、この大胸筋! そして六つに割れたこの腹筋と横筋の腹直筋を! 唯一無二のこの筋肉、怪盗Mが顔や声をそっくり真似たとしても、この筋肉だけは真似できませんよ!」


 ――確かにそう言われればそうかも……。いくら宝石を盗み出すためとはいえ、こんな筋肉馬鹿に変装しようとは思わないわ。

 萌花ちゃんは口に出さないけど、結構ひどいことを思っていた。


「た……確かに! 町田探偵は肩にでっかいメロンを載っけてますもんね!」

 雄三警部は納得した表情を見せたが、露狩さんはそうではなさそうだった。

「マッチョスーツというものを聞いたことがある……筋肉の着ぐるみのようなものだが……それを着ていないとも言い切れない」



「ちょっとマッチョ待ってくださいよ(2回目)! そんじょそこらのマッチョスーツと比べないでほしいですね、俺のこの筋肉を! ほら、動きに合わせてピクピク動く! こんなの着ぐるみじゃできませんよ!」



「ふむ……確かに」

 町田探偵が大胸筋を動かしながら話す姿に、さすがの露狩さんも本人だと認めざるを得ないようだった。



「で、怪盗Mは誰なんですか? そして、どうやって侵入するつもりなんでしょうか?」


 萌花ちゃんが脱線しまくった話を元に戻してくれた。それに対して、町田探偵は「ゴホン」と偉そうに咳払いをしてから言った。


「怪盗Mが誰なのかはわからない。だって、誰も本人の姿を見たことがないんだからね。それにどうやって侵入するかもわからない。だけど、今回は怪盗Mを捕まえるのが目的ではない。俺たちの目的は怪盗Mから宝石を守り抜くことだ」


 突然真面目口調になった町田探偵に、萌花ちゃんも誰も何も言えない。ただ話を続きに耳を傾ける。


「そして、どれだけ厳重に警備しても盗み出してしまう怪盗Mでも……一つだけ確実に盗まれない方法があるんだ」


 ゴクリとその場にいる全員(三人)が息を飲む。町田探偵の独壇場は続く。



「俺が……今から、ここで寝る!」



 突然、町田探偵は持ってきていた寝袋を広げはじめた。さすがにそれは雄三警部もツッコまざるを得ない。


「ちょっとマッチョ待ってくださいよ(3回目)、町田探偵! どうして寝るんですか!」

「いや、ね。筋肉の発達のためには十分な睡眠が必要なんだ。だから、俺は本当はこんな夜の依頼、断りたかったんだよ」

「じゃあ、断ればよかったじゃないですか!」


 だんだんと雄三警部もイライラしてきた。だが、町田探偵はあくまでも落ち着いているのだ。何か策があるかのように。


「まあまあ。落ち着いて雄三警部。今のはただのマッスル・ジョークさ。本当の狙いは別にある。よく聞いてほしい」

 上半身裸のマッチョに迫られると、雄三警部といえども大人しくなる。


「俺が今からここで寝る。そうすると、おそらく朝まで起きないだろう。しかも誰も手出しできない。そこでだ。俺が宝石をお腹に抱えたまま眠れば、怪盗Mは宝石の存在に気づかない」


「なるほど、宝石はマッチョの腹の中……というわけじゃな」露狩さんがわかったような、何もわかっていないようなことを言う。


「宝石を奪いにきたら、すでに宝石はなかった。まさか宝石が近くで寝ているマッチョのお腹にあるなんて思わないですもんね。たとえ知っていたとしても、宝石を奪うためには、寝袋のチャックを開け、町田さんのTシャツをまさぐらないといけない……と。さすがにそこまでされたら町田さんも目を覚ますでしょう。そのときは怪盗Mを捕まえてくださいね」


 もう萌花ちゃんは投げやりだった。っていうか、町田探偵が眠ったら帰ろうとさえ思っていた。



「ああ、そして萌花くん。宝石が置いてあるガラスケースの中には、代わりにプロテインを入れておいてくれたまえ! もちろん新品未開封のな!」

「は?」


「怪盗Mがせっかくやってくるのに手ぶらで返すわけにはいかないだろう? 怪盗MのMはマッチョのMだろうから、きっと喜んでくれるはずさ」


 もう誰も何もツッコまなかった。

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