解決編
「
だが、この台詞を言うときの町田探偵は冴えに冴え渡っているのだ!
「町田さん……犯人がわかったんですか?」
っていうか、外部の人間が第一発見者の三人しかいないんだから、犯人はそのうちの誰か――
まず、鈍器で頭を殴ることができるくらい重いものを持てる人……うーん、これは確かめてみないことには無理ね。でも今から確かめようたって、演技でいくらでもごまかせそう。
そうしたら、次に動機。表さんを殺害する理由がこの三人にはあるのかしら? 初対面だって言ってたけど……ん? 死んだ人に対して初対面なんていう言葉を使うかしら? あやしい! 初対面って言葉を使ったのは……夢羽ちゃん! 彼女が怪しいけど……他の二人にバレずに犯行に及ぶなんて……難しい?
そうか、わかったわ!
犯人は「三人とも」なのね!
この三人組がジムに入ったら、表さんが声をかけた。おそらく可愛い女子大生にデートの誘いとか何かしたんじゃないかしら! それを断ったら表さんが怒って襲いかかろうとした。それで思わずそこにあったダンベルで……えい! と。
そしてジムに入ったときに、死体を発見したという
萌花ちゃんは自分の推理に自信があるようで、満足げな表情を浮かべていた。
しかし、町田探偵の口から飛び出したのは、信じられないような真実だった。
「犯人は……いるのかい、いないのかい、どっちなんだい! いーないっ!」
突然始まった町田探偵の
――犯人が……いない? どういうことかしら? 萌花ちゃんの頭が混乱する。
「表さんが亡くなったのは……事故だ!」
「……は?」
町田探偵は被害者の近くに散らばっているダンベル、そして被害者の隣にあるランニングマシンを指差した。
「被害者は……っていうか、表さんはランニングマシンに乗っていたんだ。そしていつもよりも強度の高い運動をしようと速度を上げた。だけど、それに耐えられなかった……そしたら、どうなると思う? 萌花くん」
「え……ランニングマシンとか使ったことないからわかんないです」
「足がもつれて転ぶんだ。それでも足元のベルト部分は動き続けるから、当然体は後方へと持っていかれる」
町田探偵の目線がランニングマシンからその後方へと移っていく。ちょうどその先にはダンベルラックがあり、そこに軽い順にダンベルが綺麗に並べられている。
「ま、まさか表さんは自分で転んで、ダンベルを蹴飛ばし、それが頭に落ちてきたっていうのかい?」なんとなくこうじゃないかな、と思った雄三警部が町田探偵に尋ねると、彼は「その通りだよ、雄三警部!」とタンクトップからチラ見する大胸筋をピクピクさせて喜んだ。
「ってことは……これは殺人事件ではなく……ただの事故ってことですか?」
「そういうことになるね、萌花くん!」
「えっと……じゃあ、私たち帰っていいですかぁ?」三人組の女の子が面倒臭そうに雄三警部に言う。それに対して慌てて、「あっ、そうだね。……ご、ごめんね、遅くまで残ってもらっちゃって!」と頭を下げながら雄三警部が謝った。
その後の鑑識の結果、ダンベルに女の子たちの指紋なんかついていなかったし、ランニングマシンの設定もいつもよりも早く設定されていることも分かった。まさかまさか、町田探偵の推理通りだったことが明らかになったのである。
マッチョマッチョマッチョ
「なんか、今回の事件拍子抜けしちゃいましたね!」
「殺人事件なんてなかった。それだけでいいじゃないか!」
帰り道、町田探偵と萌花ちゃんが歩きながらそんな会話をしていた。
「どうだい、帰りにちょっとだけジムでトレーニングでも!」
「お一人でどうぞ。私は事務所に帰って記録を書かないといけませんので!」
萌花ちゃんは、そうやっていつも町田探偵のお誘いを軽くあしらう。
「つれないなぁ。筋トレはいいよ、体も心も引き締まるよ!」
「町田さん、ちゃんと防犯カメラのついているジムでトレーニングしてくださいよ」
夕焼け空に浮かぶ雲が力こぶのように見えて「違う違う、私の脳は筋肉に侵食されてなんかない!」と全力で否定する萌花ちゃんであった。
< トレーニングジム密室殺人事件 完 >
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