第3話 一葉の花弁
「やはり嫌な予感がする」
多くの人々が楽しげに行き
北国の短い夏は早くも過ぎ去り、山
「気のせいですって。ほら、行きますよ!」
「……お前がそういう顔のときは、大体
この魔術師、一ヶ月前の新建国祭のときも同じ顔をしていたとユストゥスは思い出す。まんまと
間違いなく来年もやらされると
「よし、来年こそは退位する」
今すぐ、近いうちに、年内には。
これでも妥協したと言わんばかりの主君に、エルマーはきっと向き直った。
「ああもう、後ろ向きな新年の抱負を今から言わないでください! 千回目の退位宣言、いい加減に聞き飽きました!」
「辞めさせてくれないからじゃないか。ラフロンだって、大公が居なくとも回っている」
国王の
「あんな鉄血の結束を誇る竜の国と、
南の大公はもう何年も
ユストゥスは
彼とて、好きで執務机に張り付いているわけではない。
主君の
「よし、行きますよ」
「どこに。魔獣討伐か?」
「違います。もっと、い い と こ ろです!」
その言葉に警戒を強めたユストゥスだが、何のことはない。連れてこられたのは王宮に隣接する王立学園だった。
ちょうど学園祭が行われており、学内は華やかに飾り付けられ賑やかな音楽が流れている。軽い足取りの側近の様子に、絶対にまた何か
「いいじゃないですか、たまには学生気分を味わったって。大体、あなたは世間を知らなさ過ぎるんですよ」
否定できないユストゥスは、黙って少しばかり唇を曲げる。見た目は金髪碧眼の完璧な貴公子なのに、中身は
氏より育ちとはよくいったもので、即位後も時間の無駄と食事は適当、服は騎士服。装飾過多は落ち着かないと殺風景な部屋で過ごしている。
幸いなことに、王の
「国王なんかより冒険者が向いていると思うんだ。私には」
「職業相談コーナーにいったらどうですか。ほら、卒業生も対象とありますよ」
真剣に案内を読み始めた主君の姿に、
(駄目だ、この人。素で転職希望票に『現在の職業:国王』と書きかねない)
✣✣–––––––––––––––––––––––––––––✣✣
たとえそれが、
ごく軽い
――
午後の陽光を反射して鋭く光るものが見えた。
ユストゥスとエルマーはその正体を見極めようと、逆光に目を
曲芸師のように、屋上の細い
「武器、それに魔導反応だと?!」
我が目を疑ったユストゥスだが、次の瞬間には校舎の出っ張り部分を踏み台に、一気に校舎の屋上へと跳躍した。
屋上に着地したユストゥスもまた魔術の雷撃に襲われる。ユストゥスは体に巡らせた魔力で
「《力の雷撃》! くっ、誰が撃った?」
見れば、
ユストゥスは雷撃を撃ったと
雷撃を放った犯人も制服姿の女子だ。
抜けるように白い肌は差し込む午後の陽を受け、光を
ユストゥスは思わず息を呑む。
ありもしない時が止まる魔法をかけられたように感じた。
そこに立つは、人ならぬ美しさを湛えた存在だった。
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