第4話
「な、んで……」
たった八文字に……私は言葉を失った。
だって、そんな素振りは無かった。
授業中に目が合えば、他の人に見つからないように微笑み返してくれて。
授業で隣に座った時には、私の目を見て笑いかけてくれた。
「おかしいところなんて無かった! なのになんで!?」
半狂乱になって叫んでしまう。
すると、隣の部屋の住人であろう声が「うるせぇぞ!!」と響いた。
「うるさい!」
カッとなって叫んで、すぐに手紙に目を落とす。
他に……他に何か書いてないの?
一度書いてから消したとか……なにか……なにか……?
血眼になって探す。
そうして、時間にして五分くらい探していた頃だった。
「あれ?」
少し落ち着いてきて、視野が広がったんだと思う。
私は、手紙に一つの違和感を見つけた。
そして——
「いかなきゃ……」
私は家を飛び出した。
「はぁ、はぁ、はぁっ!」
走る。
どこにいるのかは知らない。それでも、いてもたってもいられなかった。
——もう止めましょう。
たった八文字。
けれど、最後に至るにつれてその文字は震えていた。
どうしてすぐに気が付かなかったんだろうと後悔が胸を重くするけど、私の足は止まらない……止めるわけにはいかない。
どこに向かっていいのかなんて分からないはずなのに、一つの目的地へ向かって走る。
とよの家じゃない。
習い事の場所じゃない。
けっして、彼女が夜走っているコースじゃない。
これは勘でしかない。
でも、その勘が正しいと信じて……正しいと確信して私は走る。
冬の乾燥した空気が喉を乾かして痛みが走る。
冷たい酸素を取り込んだ肺が痛みを感じてる。
それを無視して、私は走った。
脇腹は痛いし、喉は痛いし、胸は苦しいし、足も痛い。
でも、私は止まらない。
門を抜け。
靴のまま廊下を走り。
階段を駆け上がる。
そうして、階段を上がりきった先——屋上へと続く扉が僅かに開いていた。
私は躊躇なく扉を開く。
「とよ!」
「……鈴?」
彼女はいた。
真っ暗な学校の屋上で、色とりどりに光る街並みを眺めながら。
……地面へ続く、フェンスに手を触れさせて。
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