お願い

「お礼に、私のも、飲んで、いいよ」


 そう言って、心悠莉はさっきの私みたいに、舌を少しだけ出して、私に唾液を飲ませようとしてきた。

 いや、待って、ほんとに、待って。やばい、また、ただでさえ力では敵わないのに、上から抑えられてて、逃げられないし。……今、あの時みたいにキスをして、心悠莉から逃げることも出来ない。

 だって、こいつ舌を出てるし、それごとこいつとキスとか、マジで無理。


「ま、待って、そんなに、怒るなよ。お前だって、やってきただろ? だから、落ち着こう」


 私は、心悠莉が怒ってるんだと思った。こんなことを言われても、私だったら止まらないし、無意味だとは思う。

 でも、そう言わずにはいられなかった。だって、このままだと、私の顔に、大嫌いな奴の唾液を垂らされることになるんだから。

 飲まされてるとはいえ、本当に、それも気持ち悪いし、掛けられるのも気持ち悪いに決まってる。


「大丈夫だから。恥ずかしがらないでいいよ。……口、開いて?」


 そんなこと言われて、開くわけないだろ。

 さっきまでは余裕があったけど、もう、喋るために口を開くだけで、そこに入れられそうだから、私は黙ったまま、首を横に振った。

 

「伶乃、開けないの?」


 当たり前だろ。

 口を開くつもりは無い。だから、さっさと解放しろよ。……今なら、ちょっとだけなら、許してやるから。


「そう。じゃあ、素直じゃない伶乃にはお仕置、ね」

「んぅっぁ」


 そう言って、心悠莉は私の唇を舐めてきやがった。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 キスはできるけど、舐められるのとか、マジで気持ち悪い。

 私も、ゾワゾワして、気持ち悪くて、変な声出しちゃったし、ほんとに、もう、やめろ。

 私はそういう意図を込めて、抑えられてる手を振り回そうとするけど、私の手はビクともしなかった。


「伶乃、素直にならないと、私の唾液、唇に、垂らしちゃうからね」


 待って、それは、ほんとに、やめろ。

 気持ち悪いから。冗談じゃないから。

 唇を舐められたことだって、気持ち悪いんだ。なのに、そんなところに、そんなものを垂らされたら、嫌でも、私の口の中に少しでも、入ってしまうじゃないか。


 だから、私は必死に首を横に振った。

 力で敵わない。

 だったらもう、こうやって、心悠莉に手を離してもらうしかないから。


「伶乃、動いちゃ、だめ」


 そう言って、心悠莉はもう、私の唇に唾液を垂らそうとしていた。

 やめて、おねがい。それだけは、本当に、やめて。


「おね、がい……もう、しないから……ゆる、して……」


 そして、私はみっともなく、涙を零しそうになりながら、そう言った。

 怒りでどうにかなりそうだった。

 でも、ここで許して貰えなかったら、本当に、心悠莉のをまた、飲まされることになってしまう。

 そんなの、嫌だ。

 

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大嫌いな幼馴染を惚れ薬で惚れさせて、こっぴどく振ってやろうと思ってたのに…… シャルねる @neru3656

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