私以上の最悪な気持ちを

 何度も口の中を洗った。

 ……洗ったのに、まだ、気持ち悪い。……ほんとに、最悪。

 こんなことなら、あいつなんかに料理を作ってもらうんじゃなかった。

 ……つうかなんで私があいつを後悔させるはずだったのに、私が後悔してるんだよクソがっ。


 ……一旦、落ち着こう。

 絶対、あいつも後悔させてやるんだ。

 そのためには、私の唾液もあいつに飲ませてやらなくちゃならない。……ただ、どうやって飲ませようか。

 あいつと同じように、何か料理に混ぜて、食わせてやる? ……いや、それは食材が勿体ないし、ダメだ。

 ……じゃあ、何か飲み物に混ぜる? ……悪くないけど、もっと、あいつの気分を悪くして、後悔させてやりたい。

 

 ……だったら、直接、は? ……あいつに口を開かせて、そこに私が唾液を垂らしてやれば、あいつも私と同じ……いや、それ以上に最悪な気分になって、更に、惚れ薬の効果が切れた時、今まで以上に、後悔して、最悪な気分になるはず。


 ……ただ、問題はあるな。

 かなりいい案ではあるんだけど、どうやってあいつに直接そんなものを飲ませるんだって話だよな。

 いや、今のあいつなら、単純に目を閉じて口を開けながら少し上を向いててって素直に言えば、やってくれるんじゃないのか?


「ふふっ」


 想像しただけで、私は思わず笑みがこぼれ落ちてしまった。

 最高だ。……今すぐ、あいつを後悔させてやる。

 そう思いながら、最後に後一回だけ、口を洗って、私は心悠莉がいるリビングに戻ってきた。


「心悠莉、そこに座って、目を閉じて、口を開けながら、少しだけ上を向いてくれない?」


 そして、私はなるべく笑顔で、心悠莉に向かってそう言った。


「え、なんで?」


 どうせこいつは馬鹿だから、直ぐに頷いて、私の言う通りにしてくれると思った。

 なのに、そんなことを聞いてきやがった。

 なんで? なんでだと? そんなの決まってるだろうが。お前にも、私以上の最悪な気分を味あわせてやりたいからだよ!


「……なんでもいいでしょ。お願いだから、やって?」

「……後で、伶乃が私のおねがいを聞いてくれるなら、いいよ」


 おねがい? ……なんで、私がそんなこと聞かなきゃなんないんだよ。

 馬鹿じゃないのか? 馬鹿だったわ。


「嫌に決まってるだろ。いいからさっさと言う通りに……して、ね?」


 落ち着け、一回でも、こいつを頷かせたら、私の勝ちなんだ。

 だから、少しでも、冷静になろう。


「おねがいを聞いてくれないなら、やだ」


 ……こいつはガキなのか? マジで、本当に、うざい。


「わ、かった。後で、ね」


 私は今すぐ心悠莉に殴りかかりそうな気持ちを抑えて、そう言った。


「うん。じゃあ、いいよ。……これで、いい?」


 すると、心悠莉はさっき私が指さしたソファに座って、私が言った通り、目を閉じた状態で少し上を向いて、馬鹿みたいに口を開けたまま、固まってくれた。

 

「うん。いいよ。……ただ、何があっても、目を開けたり、口を閉じたりしたらダメだからね」

「分かった」


 ふふっ。終わった時が、本当に、楽しみ。

 スマホのカメラ、用意しておこうかな。

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