こいつ、殺ーー

「心悠莉、ありが……」


 心悠莉に朝……じゃなくて、お昼ご飯を作ってもらった私は反射的に「ありがとう」と言いそうになったけど、よく考えたら、こいつのせいで変な噂が立つ可能性もあるし、普通に学校をサボってずっと私の家の前で待ってるなんて気持ち悪いし、ありがとうなんてお礼を言うのは、絶対に違う。


「よくやった」


 だから、そう言った。

 こんな言い方が一番、惚れ薬の効果が切れた時に心悠莉は後悔すると思ったから。

 

「う、うん」


 すると、何故か、本当に何故か、心悠莉は頬を赤らめて、嬉しそうに、頷いてきた。

 ……頭がおかしいのか? 知ってるけど。

 なんでこんな雑に扱われて、しかもちょっと嬉しそうなんだよ。

 はぁ、まぁいいや。さっさとこいつが作ってくれた料理を食べて、こいつを帰そう。……いや、別にもう料理は作ってもらったんだし、帰ってもらってもいいんじゃないか?


「うん。じゃあ、もう帰っていいよ」

「……は? なんで?」


 なんでって、もう用が無くなったからだけど。

 そう思いながらも、私は心悠莉に作らせた料理を食べ始めた。

 

「ねぇ、なんで? 私に帰って欲しいの? ねぇ」

「これ、美味しいね」


 なんか、めんどくさくなりそうな雰囲気だったから、私はそう言った。

 かなり棒読みだったんだけど、心悠莉は馬鹿だから、私がそう言った瞬間、嬉しそうな顔をして、何も言わなくなった。

 まぁ、実際美味しいとは思うしね。


「えへへ、良かった」

「あっそ」

「隠し味に、私の唾液とか、入れてみたんだけど、気がついた?」


 …………流石に、冗談だよな? もし、ほんとだったら、普通に、殺すぞ。

 

「冗談だよな?」


 そう思いながら、私はそう聞いた。

 

「ほんとだけど?」


 …………こいつ、ほんとに、殺そうかな。

 私は箸を置きながら、静かに、そう思った。

 ただ、そんなことをほんとにする訳にはいかないから、私はこいつと同じやり方で、私と同じ気持ち悪い思いをさせてやろう。とそう思った。


「取り敢えず、これはお前が食え。勿体ないから」

「……なんで? 伶乃、美味しいって言ってくれたじゃん。なんで、食べないの?」


 こいつは馬鹿なのか? うん。馬鹿だったわ。

 そんな真実を聞かされて、食べるわけが無いだろうが。

 

「もう、お腹いっぱいなんだよ」


 イライラした気持ちを落ち着けながら、私はそう言った。

 こいつは頭がおかしいんだ。それが惚れ薬の副作用とはいえ、頭がおかしいのは確かだ。

 だから、今心の内で思ったことをそのまま言ったら、こいつは面倒な反応をするに決まってる。

 

「そっか。じゃあ、仕方ない、かな」

「あぁ、仕方ないんだよ。でも、勿体ないからさ、お前が食べろよ」

「ラップ、あったでしょ? それで冷蔵庫に入れとくよ」


 …………食べるわけないだろうが。

 はぁ、もういいや。

 勿体ないけど、どう考えてもこいつが悪いし、こいつが帰ったら捨てよ。

 こんなの、食べられる訳ないし。

 

 そう思っていると、心悠莉が勝手にクソ料理にラップを掛けて、冷蔵庫に入れていた。

 はぁ、取り敢えず、口洗ってこよ。


「トイレ」


 私は一言そう言って、トイレには行かずに、口を洗いに向かった。

 あいつ、私の唾液も飲ませてやるからな。

 私にあんな汚いものを食わせやがって。……絶対、心悠莉にも飲ませて、最悪な気分を味あわせてやる。

 そう考えながら、私は何度も何度も口の中を洗った。

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