これはこいつが悪い

「私、もうお風呂入るから」


 かなり不本意だけど、一人用のソファで無理やり横になりながら、心悠莉と適当に電話をして、結構な時間が経ったから、私はそう言った。

 そろそろお風呂に入りたいのは事実だけど、電話を切る口実にもなるし、ちょうどいい。


「……うん、それで?」


 いや、それでってなんだよ。

 お風呂入るから、電話を切るって言ってんだよ。

 わざわざそこまで言わないと分からないのかよ。この馬鹿は。


「だから、電話は切るって話」

「……伶乃、スマホの防水ケース? みたいなの持ってるよね?」


 ……いや、なんでお前とお風呂でまで、通話をしないといけないんだよ。そもそも、わざわざそんなものを持ってきてまで、お前と通話なんてしたくねぇよ。


「あー、あれ、無くしたんだよね」


 そうは思ったけど、そのまま断ると、また面倒なことになると思った私は、適当に、そう言った。


「そうなんだ」

「そうだよ。じゃあ、もう切るぞ」

「大丈夫。私も持ってるから、今から、持っていくね」


 ????

 こいつは何を言ってるんだ? 本当に馬鹿なんじゃないのか? そこまでして、私と通話なんてしてたいのかよ。

 あぁぁぁ、マジでうざい。……でも、このままだと、こいつはほんとに来そうだから……あぁぁ、クソが。


「……いや、探したら、合ったわ。だから、来なくていいから」

「そうなの? 良かった。じゃあ、そのまま、電話できるね」


 ……こいつ、本当に、わざと煽ってるんじゃないのか? 

 もう、このまま切ってやろうかな。……いや、そんなことしたら、また家まで来て、馬鹿げたことを言ってくるかもしれない。


「…………シャワーの音で、心悠莉の声が聞こえなくて、無視するかもしれないけど、それでもいい?」

「うん、大丈夫だよ。それは仕方ないし」


 まぁ、それなら、別にいいか。

 聞こえてても、無視して置けばいいし。

 なんなら、こいつのことをミュートにしてやれば、こいつの話し声なんて、絶対に聞こえないし、ずっと無視できる。

 

「じゃあ、入ってくるから」

「うん」


 面倒だけど、スマホを防水ケースの中に入れて、私はさっきお風呂を沸かしたばかりのお風呂場に向かって、服を脱ぎ出した。

 ……これ、服を脱ぐ音とか、入ってるのかな。

 ……まぁ、別に入っててもいいか。実際に脱いでるところを見られてる訳でもないんだから。


「んっ、伶乃っ」


 そう思って、下着も脱ぎ終えたところで、心悠莉のそんな声が聞こえてきた。

 ……こいつ、私が服を脱ぐところの妄想で、シてるの? ……いや、きも。普通に。

 と言うか、ミュートしろよ! 声を抑えてるみたいだけど、全然聞こえてるんだよ。

 …………よし、もう私がこいつのことをミュートしておこう。

 流石に、お風呂に入る前にミュートにしたら、バレると思って、してなかったけど、これはこいつが悪い。

 

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