今は私のことが好きなはずなのに

 取り敢えず授業が終わって、お昼休みになった。


「伶乃、一緒に食べよ」


 私はいつも通り一人で食べようと、学食に行こうとしたんだけど、心悠莉にそう声を掛けられた。

 ……一人で食べたい。なんで気の休まるはずのお昼休憩で、心悠莉と一緒にいないとダメなの。

 

「……いいけど、心悠莉が食べさせてよ」


 少しでも、惚れ薬の効果が切れた時に、心悠莉が後悔するように、私はそう言った。

 大嫌いな私にこき使われてたなんて知ったら、絶対、後悔するだろうから。

 まぁ、それも、心悠莉がそれでいいって頷いてくれたらだけどさ。

 私的にはどっちでもいい。心悠莉が頷いてくれたら、心悠莉を後悔させられるし、頷かなかったら、一人で食べられる。

 

「ん、分かった」

「あっそ。じゃあ、さっさと行こ」


 心悠莉が頷いてきたから、私は適当にそう言って、学食に歩き出した。  

 

「うんっ」


 ……いつも思うけど、こんな雑に扱ってるのに、よくこんな嬉しそうな顔出来るな。……いや、惚れ薬のせいだってことは分かってるけどさ。

 ……と言うか、もし、この惚れ薬が効いてる状態で、心悠莉の前で私が誰かとイチャついたりしたら、どうなるんだろ。……やってみたい。……でも、そんなイチャイチャしてる演技をしてくれるような友達なんていないから、無理だな。


「これでいいや」


 そう言って、私はサンドイッチを買いに向かった。

 

「心悠莉は弁当?」

「うん。そうだよ」


 ……まぁ、そうだよね。こいつ、料理も上手いもんね。……いや、料理くらい、私もできるけど、朝からそんなの作るとか、面倒だし。

 

「じゃあ、そこで食べよ」

「うんっ」

 

 私はちょうど空いていた席を指さして、そう言った。

 するとまた、無駄に嬉しそうに、心悠莉が頷いて、私の前に座ってきた。

 ……座って、心悠莉をこき使うために、サンドイッチを持ってもらって、食べさせてもらおうとしたところで、気がついた。……人目がないところならともかく、こんなところでそんなことをしたら、ただ私が心悠莉とイチャついてるみたいに見えるじゃん! 

 

 そう思って、サンドイッチを心悠莉の方に置こうとしていた手を引いた。……引いたんだけど、心悠莉にサンドイッチを奪われてしまった。


「伶乃、あーん」

「……いや、やっぱり、自分で食べるから」

「だめ。食べさせるって約束で、来たから」


 いや、なんでこんな変なとこ頑固なんだよこいつは。お前は私にこき使われようとしてたんだよ。それが回避できるんだから、大人しく普通に一緒にお昼を食べるだけでいいだろ。

 

「ほら、あーん」


 ………………ほんとに、嫌だけど、こうやってサンドイッチを手に持って、私の方に手を伸ばしてきてる方が、恥ずかしいから、羞恥心に耐えながら、口を開いて、心悠莉が食べさせようとしてきてるサンドイッチを食べた。

 

「どう?」

「……普通にサンドイッチだけど。……もう、自分で食べるよ」

「だめ」


 ……ああぁぁぁもう。なんでこいつはこんなところで頑固なんだよ。

 もう、さっさと食べて、終わらせよう。

 そう思って、私は羞恥心に襲われながら、心悠莉にサンドイッチを食べさせてもらった。

 ……なんで心悠莉を後悔させるはずが、私が後悔することになってるんだよ。

 

「伶乃、可愛い」


 私がサンドイッチを咀嚼していると、心悠莉が急にそう言ってきた。

 こいつ……今は私のことが好きなはずなのに、そんな状態でも、私のことを馬鹿にしてくるのかよ。


「伶乃、好きだよ」

「ッ」


 …………私は、大っ嫌い、だよ。




あとがき

よろしければ、こちらもどうぞ。

【学校一の美少女から告白された私は、同性を好きになることは出来ないと言って家に帰って眠った……はずなのに、何故か告白される日に時間が巻き戻っていた】

https://kakuyomu.jp/works/16817330660968845144

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