分かってんでしょ


「伶乃、どうしたの?」


 教室に着いて、荷物を机に入れたりして、確認していると、不本意にも隣の席の心悠莉がそんなことを聞いてきた。

 そんな言葉につられて、心悠莉の顔を見ると、ため息が出そうになった。

 だって、一限目の数学の教科書忘れちゃったんだよ。……はぁ、これじゃあ心悠莉に見せてもらわなきゃダメじゃん。……もう、保健室に行って、サボろうかな。

 

「別に、なんでもないよ」

「ほんとに?」


 めんどくさいな。なんでもないって言ってるじゃん。

 あー、いや、体調悪いって言った方が良かったかな。そしたら、保健室に行ったって、不自然じゃないし。……いや、どうせ私がサボりなことなんか、みんな分かってるし、どうでもいいか。出席日数さえ取っとけば、私、成績は良いし、誰にどう思われようが、いいや。


「伶乃? どこ行くの? もうチャイム鳴るよ」


 そう思って、私が席を立ち上がって、保健室に行こうとすると、心悠莉からそう言われた。

 

「保健室」


 無視して行っても良かったけど、それはそれで面倒くさそうだから、私はそう答えた。


「大丈夫? 体調、悪いの?」


 ……何、こいつ。サボりに決まってるでしょ。……惚れ薬のおかげで、私のことが好きになったから、サボりって分かってながら、私のことを心配してるフリでもしてんのかな。


「あー、うん」


 そう思うと、更にめんどくさくなって、適当にそう答えて、保健室に向かった。





「体調悪いんで、ベッド借ります」


 保健室に着いた私は、保健の先生にそう言って、ベッドに寝転んだ。

 もう私は保健室の常連みたいな状態だから、保健の先生的にも、またかって感じで、何も言われないから、楽でいい。

 心悠莉ももう、何も言ってこなきゃいいのに。


 そんなことを考えながら、私は目を閉じて、眠りに着いた。



 そして、チャイムが鳴って、私は目を覚ました。

 ……眠。眠いけど、数学の教科書以外は忘れてないし、教室、戻ろうかな。

 

「伶乃、大丈夫?」


 そう思って、ベッドから起き上がろうとしたところで、心悠莉が保健室に入ってきて、私にそう言ってきた。

 ……なんで来たの? 


「そういうの、いいから。サボりだって、分かってんでしょ」

「サボり、なの? ……良かった」

「は?」


 何、良かったって。何がいいんだよ。


「心配、した」

「ッ、は、はぁ?」


 心配? 馬鹿じゃないの? だから、サボりって気がついてたんだろ? もうそういう演技いいって。

 

「教室、戻ろ?」


 さっきまで、教室に戻るつもりだったけど、こいつに言われたら、なんか、戻りたくなくなってきたな。

 もう、このままサボろっかな。


「うん」


 そう思ったはずなのに、私は何故か頷いていて、差し出されていた心悠莉の手を取った。

 ……なんで私、こいつの手を取ってるんだよ。あれから、手とか、絶対洗ってないだろ。……まぁ、いいか。後で洗えばいいし。


「えへへ、伶乃の手、暖かいね」

「人肌なんて、そんなもんでしょ」


 私は何故か、手じゃなく、顔が熱い気がしたけど、気にせずに、教室に戻った。

 戻ってから、私は心悠莉と手を繋いでることのおかしさに気がついて、直ぐに手を振り払って、繋いでいた手を離した。

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