これで、我慢して

 視線を感じる。

 まぁそりゃ、女の子同士、それも仲が悪かったはずの私たちが手なんか繋いで登校してたら、不思議にも思うか。

 こいつはいつも学年一位で私はいつも学年二位の成績だから、良くも悪くも有名だし。私たち。

 後、一応、客観的に見たら、こいつ、可愛いし。性格は置いといてだけど。


「もうそろそろ、学校に着くから、手、離して」


 そして、私は学校が見えてきたところで、隣で嬉しそうにしている心悠莉にそう言った。

 

「なんで?」


 なんでって、私はあくまで惚れ薬の効果が切れた時、心悠莉が現実逃避出来ないように、一緒に登校してるだけだから。本来なら、手なんて繋ぐ必要ないんだよ。しかも汚いし。

 はぁ、こんなこと、バカ正直に言えないし、なんて言えばいいだろうなぁ。


「なんでもいいだろ」


 なんか、色々と考えてたら、なんで私がこいつに気を使わなきゃいけないんだと思ったから、そう言って、無理やり、私は手を離させた。


「あっ」


 すると、目に見えたように、心悠莉は落ち込みだした。 

 ……あぁぁ、もう! これじゃあ私がこんな顔させてるみたいじゃん! いや、実際そうなんだけどさ。


「ほら、これで我慢して」


 私はどうしたら心悠莉が元気になるかを必死に考えて、考えた結果、私のことが大好きなのを思い出して、心悠莉にだけ見えるようにして、自分の指にキスをして、それを心悠莉の唇に押し当てた。


「えっ、あっ……伶乃、好き……」


 すると、心悠莉はさっきまでの雰囲気が嘘みたいに、嬉しそうにして、顔を俯けながら、そう言ってきた。


「あっそ」

「えへへ」


 ……こんな適当にあしらってるのに、なんでこんな嬉しそうなんだよ。

 はぁ、人の家のトイレで一人えっちするようなやつだし、考えるだけ無駄か。


 もう私は考えることをやめて、学校に向かってさっきより早く歩き出した。

 すると、私の速さに合わせて、もう手は繋いでないけど、隣を心悠莉が着いてくる。顔を赤くしながら。


 私はそんな心悠莉を見て、歩く速度を元に戻した。

 別に、心悠莉に気を使ったわけではない。ただ、傍から見たら、私が無理やり心悠莉を疲れさせてるように見えるから、遅くしただけだ。

 ……結局、私がこいつに気を使っちゃってるし。

 はぁ……まぁいいか。こんな幸せそうな顔してられるのなんて、今だけなんだから。


 ふふっ。そう思うと、イライラが無くなってきたな。


「早く行こ」

「うんっ。伶乃、好き」

「……あっそ」


 惚れ薬の効果が切れた時が楽しみ。

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