汚いからだけど

「あっ、んっ、伶乃っ、好きっ」

 

 そして、一際大きな声が聞こえたかと思うと、それ以上、声はしなくなった。

 そして、中から立ち上がる気配を感じた私は、急いでリビングに戻った。服の身だしなみを戻しながら。


「……遅くなって、ごめん」


 そして、私がソファに座ってさっきまでのことなんかなかったかのように振舞っていると、心悠莉がそう言って、リビングに入ってきた。


「……別に」


 今、下手なことを喋ったら、墓穴を掘りそうだったから、私はそう、ぶっきらぼうに返した。


「これ、消すから」


 すると、私にさっきの写真を見せてきながら、削除ボタンを私に見えるように押していた。

 

「復元、できるでしょ。そっちも、消して」

「う、うん」


 ……なんで、ちょっと動揺してるんだよ。

 もしかしてこいつ、復元しようとしてた? 危な。どんだけ私のそういう写真欲しいんだよ。


「そろそろ学校行こ」


 そんなことを思いつつも、心悠莉が写真を完全に消すのを見た私は、そう言った。


「う、うんっ」


 すると、嬉しそうに頷いて、私にくっついてきやがった。

 

「靴、履きにくいんだけど」

「……ごめん。嬉しくて、つい」


 はぁ、謝るなら、さっさと離れてくれないかな。

 ……ん? あれ、そういえば、こいつ、さっき、手、洗ってたか? ……待って、あそこを触った手で今私触られてるの!? ああいうことをしてたってことは、かなり濡れてたってこと、だよね。

 

「靴、履くから、離れて」

「履いた後だったら、いい?」


 いいわけないだろ。そもそも、手、洗えよ!

 普通にトイレした後だったら、いつも洗ってるのは知ってるぞ。なんでそういうことをした手は洗わないんだよ。


「だめ」


 私はそう言って、心悠莉を離して、靴を履いた。


「じゃあ、手、繋ご?」


 すると、心悠莉も靴を履いて、一緒に家を出たところで、そう言ってきた。

 繋ぐわけないだろバカが。そんな手と繋ぐくらいだったら、さっきみたいにくっつかれてる方がまだマシだわ。

 いや、マシってだけで、くっつかせないけどさ。


「無理」

「な、なんで……?」


 汚いからだけど。……でも、それを正直に言ったら、さっき、あれをこっそり聞いてたのがバレちゃうから、言えない。

 ……はぁ。なんで、そんな泣きそうな顔になってんの。マジで。……いや、私が好きだからか。惚れ薬のおかげで。


「はい、今は、恥ずかしいから、これならいいよ」


 このままだと、ほんとに心悠莉が泣き出したりして、めんどくさいから、私はそう言いながら、服の裾を伸ばして、いわゆる萌え袖の状態で心悠莉の方に手を出した。

 

「う、うん。……えへへ」


 ……正直、かなり癪ではあるけど、一人えっちであそこを触った手じゃなかったら、可愛いとは思う。

 でも、その一つの事実のせいで、全然可愛くないし、気持ち悪い。

 はぁ、まぁ、服だし、ギリギリ、ほんとにギリギリ、妥協点かな。


「行こっか」

「……あー、うん」


 そう言って、心悠莉は笑いかけてきた。

 私はそれに適当に相槌を打って、一緒に歩き出した。

 

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