なんで私が

 眠い。……学校、めんどくさいな。……もう、今日は休もうかな。

 朝、ベッドの上で目を覚ました私は、そんなことを考えた。

 

「はぁ」


 そうは思ったけど、ただでさえ、私は早退ばっかりしてるんだから、一応、早退するとしても、学校に行ってると行ってないのとではかなり変わってくると思うから、そんなため息をつきながら、ベッドから起き上がった。

 その瞬間、インターホンが鳴った。


 ……こんな時間に、だれだよ。

 何か頼んでたっけ? ……惚れ薬? ……は昨日届いたか。じゃあ、ほんとに何? 特に何かを頼んだ覚えが無いんだけど。


「はい」


 めんどくさい気持ちを押し隠しつつ、私はインターホン越しにそう言った。


「伶乃、迎えに来た」


 ……迎え? ……なんでこいつが、私の? そもそも、迎えって、どこに行く? 


「昨日、メール来たから」


 あ、そういえば、そうだった。

 昨日、惚れ薬の効果が無くなった時、心悠莉が現実逃避出来ないように、大嫌いな私と登校する所を色んな人に見てもらおうと思って、一緒に学校行こうってメールしたんだった。


「あー……今、扉開けるから」


 昨日は楽しみだったのに、いざ当日になると面倒に感じることってあると思うんだよ。今が正にそれだ。……だから、正直家に上げたくもなかったんだけど、そうしたら、今の惚れ薬の影響で私の事大好きな心悠莉は私の家の前で待ち続けそうだから、家にあげることにした。近所で変な噂になっても困るし。


「……伶乃、昨日ぶり」

「そうだね。……キスでもする?」


 私は冗談のつもりで、小馬鹿にするようにそう言ったのに、心悠莉は急に顔を赤らめて、小さく頷いてきた。

 ……は? ほんとにすんの。……いや、今の惚れ薬が効いてる状態なら、この返答は予想しとくべきだったか。普通に。

 

 自分の軽口に後悔しつつ、私は惚れ薬が切れた時、絶望する心悠莉を想像して、キスをしようとしたんだけど、あと少しで唇がくっつく、というところで、やめた。

 そういえば私、起きたばっかりで、歯磨きもしてないんだった。

 そう思って、私が顔を近づけたことで目を閉じて、唇を少しすぼめて今か今かと私がキスをすることを待っている心悠莉を放って、歯を磨きに、洗面所に移動した。

 ……わざと足音を立てないようにして。

 あの状態で放置しとくのもそれはそれで面白そうだし。


 そして、歯を磨き終わった私は、飲み物を飲むために、リビングに移動した。

 すると、拗ねた様子でソファに座っている心悠莉がいた。

 私はそれを無視して、冷蔵庫から飲み物を取りだして、飲んだ。

 よし、水分補給もしたし、後は適当にスマホでも弄ってようかな。私、朝ごはん食べない派だし。


 そう思って、私はソファに移動しようとしたんだけど、拗ねた心悠莉がいるのを忘れてた。

 ……座る場所、ソファしかないから、どいてくれないかな。……ソファとはいっても、ちっちゃい一人用のやつだから、心悠莉が退いてくれないと、邪魔で座れないんだけど。


「……さっきは歯磨き、まだしてなかったからさ」

「……一言、言ってから磨きに行ったらよかった」


 ……なんで私がこんな拗ねた彼女のご機嫌を摂るみたいなやり取りしてるんだよ。

 

「今度はキス、ちゃんとするから、そこ退いて?」

「……ここ、座って」


 私がそう言うと、心悠莉は自分の膝をポンポンして、そう言ってきた。

 ……まぁ、いいか。心悠莉の膝でも。いつか後悔してくれ。


 そう思って、心悠莉の膝の上に座ると、まるで逃がさないといった感じで、お腹あたりを抱きしめられた。

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