まだ、振らなくてもいいや

「好き、大好き、伶乃、大好き!」


 私が戸惑っていると、心悠莉はそう言って、顔を真っ赤にしながら、いきなり抱きついてきた。

 は? 効いたってこと?

 それ以外にありえない。だって、あんないつも私のことをバカにしてくる心悠莉が、こんなにみっともない姿を見せるわけが無い。

 そう理解した瞬間、私は笑みが漏れてきていた。


「心悠莉、こっち向いて」


 私がそう言うと、私に抱きつきながら、心悠莉は私の方を向いてきた。

 だから、そのまま、私は心悠莉の唇を奪った。

 すると、心悠莉はさらに顔を真っ赤にして、嬉しそうに私を受け入れた。

 ふふっ、私は好きなんかじゃない人でも、女なら、ノーカウントだから、全然キスくらいできる。これで、更に私を好きにさせて、こっぴどく、無様に振ってやる。


 あ、でも、この惚れ薬っていつまで効果があるんだろう。……効果が切れてたら、振っても何も思わないだろうし、どうしよう。……いつ切れるか分からないし、いっその事、今振ってやろうかな。


 そう思って、私は顔を真っ赤にさせてる心悠莉のことを見つめた。

 すると、心悠莉は更に顔を真っ赤にさせたまま、嬉しそうに、私に向かって、はにかんできた。


「――ッ」


 何、その顔。……いつもは絶対、そんな顔向けてこないくせに。……バカバカしい。ほんとに、バカバカしい。

 でも、まだ振らないでいいや。

 流石に、一日やそこらで効果が切れるとは思わないし。


「……伶乃、もう一回、して」


 私が内心でそう決めると、心悠莉がまだ顔を真っ赤にしたまま、期待したような目を私に向けて、そう言ってきた。

 

「いいよ」


 そう答えて、私は心悠莉の期待通り、キスをしようと、顔を近づけて、心悠莉が目を閉じたところで、写真を撮った。


「……え」


 写真を撮る音が聞こえて、目を開けて困惑する心悠莉に、私は今度こそ、キスをした。

 すると、私を好きになってる心悠莉は単純で、直ぐに幸せそうな顔をした。

 ふふっ、惚れ薬の効果が切れた時、この写真を見せて、嫌いな私にこんな顔向けてたんだぞ! って言ってやる。


 そして、私が心悠莉と重ねている唇を離そうとすると、心悠莉は私のことを抱きしめてきて、離させてくれなかった。

 

「んっ!?」

 

 ……はぁ、別にいいけどさ。……と言うか、今この瞬間の写真も撮ってやろうかな。心悠莉、めちゃくちゃ、目、とろけてるし。どんだけ幸せなんだよ。

 そう思ってると、写真を撮る音が聞こえた。


「は?」


 そして、心悠莉が離れたから、私はそんな声を上げた。

 今、こいつ、私とキスしてる写真撮りやがった。


「仕返し。……伶乃だけ、ずるいから」


 ずるいって……いや、ま、まぁ、いいや。

 どうせ、後悔するのはこいつだ。

 私とのキスの写真なんて撮って、惚れ薬の効果が消えた時、どんな顔するのか、見てみたいよ。


「宝物に、する」

「――ッ、か、勝手にしたら」


 ……どうせ、私はつまんなそうな顔してるだろうから、別にいいし。

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