挨拶――星宮花織

「花織、いい加減起きなさい!」


 夢の世界を漂っていると、いきなり布団を引きはがされて目を覚ました。

 私の布団を奪ったのは、鬼のような形相をした花月かづきお姉ちゃんだった。


「えぇ……、もう朝?」

「当たり前じゃない。お父さん、もう仕事行っちゃったからね。私も、もう行くから」


 部屋を出て行こうとするお姉ちゃんのあとを、慌ててベッドを降りてついていく。


 洗面所で顔を洗い、とりあえず髪を一つに結んでからダイニングテーブルに向かった。


 そこには、朝ご飯を食べている花向かなたお兄ちゃん。


「おはよう、お兄ちゃん!」


 まだ兄離れできていない私は、お兄ちゃんの背中に抱き着く。ちなみにお姉ちゃんには、無理やり姉離れさせられた。


「おはよう花織。もう八時だよ? 大丈夫?」

「えっ……!」


 時計を見て、私は目を瞠った。

 時刻は、八時二分。


 いつもは余裕をもって七時半に起きているのに、昨日寝るのが遅かったためかしっかりと寝坊していた。しかも、アラームもかけ忘れていた。


 私は慌てて椅子に座り、朝ご飯を頬張る。


「喉に詰まらせないでよね。いってきます」


 お姉ちゃんが呆れ返った目で私を見てから、家を出た。


 朝食を食べ終え、着慣れた制服に着替えてからスクールバッグを持って一階に下りる。

 髪の毛を櫛でとかし、くるりんぱにしてから洗面所を出た。


「お兄ちゃん、一緒に行こ」

「いいよ」


 ほぼ同時に準備を終えた私がお兄ちゃんに声をかけると、すぐに頷いてくれた。


 白のジャンパーを着て、手袋を着用してから玄関に置かれた全身鏡で、自分の姿を確認する。

 ……うん、準備オーケー!


 ローファーを履いて、お兄ちゃんと一緒に家を出た。


「あっ、花織」


 中二からの友達――吉田よしだはるが「おはよう」と私に手を振った。たまたま私の家の前を通ったらしい春は、お兄ちゃんにも「花向さんも一緒に行こう」と笑いかけた。


 それから五分ほど――私の家は中学に近い――で中学に着き、お兄ちゃんとは下駄箱で別れて春と一緒に教室へ向かう。


「おはよう!」


 教室に入り、私は明るい声を上げた。春と別れて、席へ向かう。私の隣の席には、俯いているクラスメイトの女の子。


「おはよ、柴田さん」


 いつも通り、柴田さんに声をかけた。彼女は小さな声で「おはようございます」と返してくれる。

 今は、これくらいの関係でいいだろう。


――私は柴田さんと、友達になりたい。


 柴田みどりさん。

 誰とも話そうとしない、少し不思議なクラスメイト。

 光に照らされると緑色に見える髪の毛が素敵な女の子だ。


 は彼女と友達になれなかったけれど、今度こそ絶対、友達になりたい。そして彼女が困っていたら、必ず助ける。

 友達になりたいから、私はこれからも柴田さんに声をかけ続ける。

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