第4話 消えてしまえたら
ディナーからの帰り道、「送っていく」と言う彼を「一人になりたいから」と振り払い、唯花は家路に着く。
夜風がひんやりと肌を突く。薄いカーディガン一枚では足りなかった。
風に飛ばされないように裾を掴むと、まるでマントのように布地がなびくのを感じた。
気を紛らわすかのようにそのまま歩いていると、公園のブランコが目に入る。
――ヒーローみたいになりたかった。
唯花は学生時代を思い出す。
笑顔の花を咲かせたい。その種になるような魔法が使えたら。
そんな気持ちで始めた手品に、多少なりともハマっていた。
そういえばいつの頃か、この公園で一人ぼっちの少年を見つけたのだった。
路上でのマジックショーに失敗したその日。不完全燃焼な気持ちをどうにかしたくて、たまたま見つけた少年に手品を披露した。
――あの子はどうしているだろう。
遠い日の少年が脳裏に浮かぶ。
驚いた顔に満足したのが懐かしい。
当時の彼がそうしていたように、ブランコに座って揺らす。
脳内が雑然とした感情と思考でとっちらかっていく。
なんとかすると意気込んで実家で働くも上手くいかず、彼氏には実質フラれてひとりぼっち。母親も、天国の父もがっかりするかもしれない。
誰かの救いをただ待っている私は、誰かを楽しませようと息まいていた学生時代の私にすら顔向けできない。
常夜灯が作り出す物寂しげな影に、ぽつり、ぽつりと水滴が落ちた。
胸が締め付けられるように痛い。嗚咽を必死で堪えながら肩を揺らす。惨めさで身が焼けてしまいそうだ。いっそこのまま、消えてしまえたらいいのに。
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