第2話 咲かない

「今月もギリギリね」


 母親がぶっきらぼうにため息を吐く。娘の唯花ゆいかは苦笑いを浮かべた。


「まあ、なんとかなるよ」


 根拠はないけれど、という言葉は飲み込んだ。ただ、未来を想像するとめまいがしそうだったので、あえてそれでも前向きな言葉を紡ぐ。


「そうだといいけど」


 母親も何とも言えない表情で返す。何を根拠に言っているのよ、なんて言えやしなかった。

 親子で花屋を営む彼女たちの生活は、決して裕福とは言えない。大黒柱だった父親は唯花の大学卒業後すぐに他界。

 それから七年、女二人でなんとかやってきている。


「唯花、彼とは上手くいっているの?」


 冗談めかして母親が言う。言葉に「いい人とくっついてくれれば安泰」という微かな願いが滲む。


「う、うん」


 返事に言い淀む唯花。今、触れられたい話題では無かった。


「……今夜、また会ってくるから」

「そう。私のことはいいから、行っといで」

「ありがとう」


 背中を向けたままでお礼を告げ、自室へと向かう。

 仕事着のエプロンを脱ぎ、あらかじめ決めていたディナー用の衣装に着替え、髪とメイクを整えて玄関へ。

 戸を開けようとしたところで、背中に冷たい空気を感じた。


――背中、開き過ぎかも。


 いったん自室へ戻り、薄いカーディガンを羽織って外へ出た。

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