第15話 UFOキャッチャー、景品は未来で

僕は人生で初めて、ゲームセンターなるものに来た。


理由はただ一つ、よく考えると普通に遊んだことないから。


今までそんなことを意識したこともなかったが、やはり原因は打ち合わせだった。


「えぇ、先生ってゲームセンターで遊んだことないんですねぇ」


「なんかぁ、良いところのお坊ちゃんって感じぃ」


何となくそれにムキになった僕は、近場のゲームセンターを調べてここに来た。


店内に入ると、老若男女問わずかなりの人がいて、様々なゲームで遊んでいる。


僕はとりあえず、やったことがなくても何となくわかるUFOキャッチャーをすることにした。


しかし、アニメのグッズなどはあまり詳しくないため取っても困ると思い、何かいい感じのやつがないかと中の景品を吟味しながら歩いていると、カプセルの中に髪が入っているタイプのUFOキャッチャーを見つけた。


「確かこう言うのって引換券が入ってるんだったかな、しかし周りにも景品らしきものが見当たらないし、店員さんの前で引き換えてもらうのかな」


「少し気になるしやってみよう」


まずは一回目。


とりあえずガチャガチャ玉の多いところにアームを寄せて真ん中あたりで下ろしてみた。


しかし、アームが綺麗に玉の上の輪っかを掴むことなんてなく、空を切った。


「なるほどな、じゃあ端っこあたりに輪っかが上になってるやつを狙って・・・」


さっき見たアームの動き的にこれくらいだろうと言うところで調整してアームを下ろす。


アームは輪っかをかすめたが、やはり持ち上げるところまではいかない。


「くそっ、なんか悔しいな」


その後何プレイかすると、ようやく一つ取ることができた。


「よしっ、中身を見てみよう」


中身に大きな期待を寄せながら、中の紙を取り出す。


「えーと、カニ?」


景品で生ものってアリなんだろうか、そんなことを思ったが、きっと大丈夫なんだろうと思ってポッケに紙をしまう。


その後も何個か玉を取ることに成功し、飽きたところでまとめて開けてみた。


「えー、メロンにハワイへの旅行チケット、そして彼女?」


バカにしてるのかと思ったが、もしかしたら少し気を利かせたハズレなのかもしれないと思って僕は彼女と書いた紙以外を店員のところへ持っていた。


しかし、店員にはなぜか変な顔をされ、うちにこんな景品を置いているクレーンゲームはないと言われ、しまいにはこちらが悪戯をしていると思われてしまった。


やるせない気持ちでゲームセンターを後にし、帰り道にせっかくこっちまで来たので近くの商店街で買い物をしていくことにした。


ここはたまにしか来ないのだが、昔ながらの商店街があって、それぞれの店の店主たちが皆元気に接客をしていて、すごく良い雰囲気なのだ。


僕はまず八百屋に寄ると、いきなり鐘の音が聞こえた。


カランカラン


「お客さん!おめでとう」


いきなり言われて何のことかと思い、思わず後ろにのけぞる。


「アンタがウチに来た丁度十万人目のお客さんだよ」


「は、はぁ」


「お祝いにこの特大メロンを差し上げよう」


そう言われて、僕はメロンを持たされた。


「メロン・・・確かあそこで当てた景品にあった気がするが、流石に気のせいか?」


そう思いながら、片手が塞がったので野菜を買うことを諦めて帰ることにしたが、どうやら福引をやっているようで、八百屋のおじさんが福引券を二枚くれた。


とりあえずそれは引いてこうと思った僕は、福引を引きに向かった。


「あの、福引お願いします」


「はい、二枚ね」


「さっ、回して良いよ」


そう言われて、勢いよく回すと赤と黄色の球が出た。


「す、すごいよお客さん!」


「一等の海外旅行券と二等のカニを同時に当てたぞ、くそっ、持ってけドロボー!」


そう言われ、僕は片手にカニの箱、もう片方にメロンを持つ羽目になった。


嬉しくない訳じゃないが、やはりあのUFOキャッチャーでとったものがもらえている。


つまりはこの後、彼女が・・・


そんなことを考えてバス停でバスを待っていた。


しばらくするとバスが到着し、僕は両手の荷物を落とさないように慎重に乗り込んだ。


バスは結構混んでいて、ほぼ全ての席が埋まっていたが、唯一二人席のうち一人分だけ空いている場所を見つけたので、申し訳ないがそこに座ることにした。


「すいません、隣いいですか?」


そう聞くと、その顔には見覚えがある。


「いいですけど・・・あれぇ?先生」


僕をゲーセンに行かせるきっかけを作った張本人だった。


「すごい荷物ですねぇ、何かあったんですか?」


「とりあえずいいから先生呼びをやめろ」


座ってからは、ゲーセンの話はせずに、メロンやカニを手に入れた話だけをした。


ハワイの旅行券が羨ましいとうるさかったので、とりあえずそれはあげることにした。


その後、降りる場所に着くと、彼女が運ぶのを手伝うと言って来た。


ハワイの旅行券をあげたからだろうが、彼女にしては珍しい。


「優しい編集がいて良かったですねぇ」


「君はただ手伝いをしてやってるというつもりなんだろうが、ハワイの旅行券を譲った僕からしたら現金なやつだと思うよ」


「ふふっ、まぁいいじゃないですか」


家までカニを運んでもらい、お茶を飲んで休みたいと言われたが断って帰らせた。


「ふぅ、本当に大変だった」


「元よりハワイにはそこまで興味なかったからいいが、手伝ってくれる奴がいて助かった」


「・・・にしても、あのUFOキャッチャーは何だったんだ?」


取ったものが割と近しい未来でもらえると言うことなのだろうか。


「それでいくと彼女があれってことか?」


深く頭を悩ませたが、やはりあの紙は気の利いたハズレと考えることにした。





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