第11話 桐の木にて・・・鶏?

なんてことない日の正午、なつかしい人物からメールが届いた。


件名 朝日養鶏での連日火事事件について

小説家

元輿付喪様


急な連絡申し訳ございません。

鋳型秀蔵です。


連日ニュースにもなっていますが、私、朝日養鶏の者と親戚でして、最近の事件についてよく悩みの相談を受けていました。

そこで元輿さんに相談してみるといいかもしれないと答えてしまったのですが、取材してみる気はありませんか?


どうやら、メディアにはまだ話していないそうですが、火事の原因かもしれないある事が少し前に起こったようですので、気になったのでしたら返信お願い致します。


株式会社鋳型製鉄

最高責任者

鋳型秀蔵

501-3726岐阜県美濃市加治屋町


「随分となつかしい人からのメールだな」


「それにしても、メディアにまだ話していない情報か・・・気になるところだな」


僕は取材する旨をメールで伝え、返信を待つことにした。


しばらくして、再びメールが届く。


取材を受けてくださり誠に有難う御座います。


では、詳しい日程を下に書いておきますのでご確認ください。


私鋳型も同行の予定ですので、何卒よろしくお願い致します。


取材日 九月十三日

集合場所 東京駅

集合時間 九時半


「取材は明後日か」


今回の取材は少し嫌な予感がするため、いつも取材で持っていくバッグの中に護衛のお札を入れていく事にした。


取材当日


東京駅で鋳型さんと落ち合い、十時半の新幹線に乗って山形へと向かった。


二時間半後


山形駅に着くと、駅で朝日養鶏の山本さんという方が待っていた。


「朝日養鶏の山本耕史と申します」


「元輿付喪です、本日はよろしくお願いします」


軽く挨拶を済ませて、鋳型さんと山本さんの車に乗り込み、現場の養鶏場まで移動した。


移動中、山本さんがある伝承について話をしてくれた。


「この辺はね、桐の木が有名でして、ほらそこにも桐の木の林があるでしょ」


山本さんが指をその方向に向けながら説明する。


「桐の木には昔から優秀な帝王が即位した時に現れるとされる鳳凰が住むなんて伝承がありますから、この辺の地域でも昔から悪い役人が来た時には鳳凰が怒り狂ってその土地を焼き払ってしまうなんて伝承があるんです」


「それが今回の連日の火事に関係があるという事ですか?」


「まぁ、嘘と思われそうだからメディアには言ってませんがその可能性が高いと思ってます」


より詳しく話を聞こうとすると、ちょうど目的地の朝日養鶏に着いた。


「詳しい説明は降りてからしましょう」


山本さんがそう言い、僕と鋳型さんも車から降りて山本さんの家に招いてもらった。


「それで話の続きなんですけどね、うちは昔から鶏をたくさん育ててますから、たまに逃げちゃう奴がいるんですよ」


「まぁ、私たちも長い事やってますから基本はすぐに捕まえれるんですけど、この前逃げたそいつだけは偉く俊敏に逃げましてね、今思えば桐の木に引き寄せられていたのかもしれないんですが」


「そいつがこの近くの桐の木の林に逃げ込んでですね、それからなんですよここで火事が頻発するようになったの」


「なるほど・・・」


「それで俺が一番驚いてるのはこの後なんだ」


山本さんの表情が先ほどよりも神妙な顔つきになり、口調も少し変わる。


「一回目の火事は、すぐに気づけてそんなに大した事なかったから俺たちが急いで消火したら間に合ったんだ、そしたらさっきまで燃え盛っていた炎の中からピンピンしたままの鶏が出てきてよ、俺はあいつだってすぐわかったから捕まえようとしたんだけど、オーラというかすごい熱気みたいなのに押されて結局捕まえるどころか一定の距離までしか近づけなかったんだ」


「つまりその鶏が鳳凰的なものになってしまったという事ですか?」


「俺はそう考えてる」


「はは、そんなに熱気はなってたら普通の卵じゃなくてゆで卵なんか生んじゃいそうですね」


真剣な話し合いの場の雰囲気がいきなり崩れた。


「おい鋳型、俺は真面目な話してるんだぞ、茶化すなら帰れ」


「いや、すまんすまん、そう言うつもりじゃなくて少し気になっただけじゃないか」


山本さんも半ば諦めている感じだったが、そういえばこの鋳型秀蔵はかなりネジがぶっ飛んでる側の人間であった事を思い出した。


今回の調査、この男にテンポが崩されてしまいそうだが、折れないように気をつけようと前もって覚悟を決めた。


「・・・話を戻すんですけど、その逃げ出した鶏っていうのはどこにいるか今はわからないのですが?」


「あぁ、火事現場の近くは隈なく探してるんだが、最後に見たのはそいつが普通の鶏とは違う何かになっちまった直後だけだ」


現状、ほぼノーヒント状態なため、言ってしまえばまた火事が起こるかしないとその鶏を探し出すのは厳しそうだった。


二人で頭を悩ませていると、鋳型があることに気づいた。


「熱気をずっと放ってるってことは普段から林の中で暮らすのは無理だよなぁ」


「確かに・・・つまり火が起こらないような環境に身を潜めているという事か?」


「あっ!それなら・・・」


鋳型さんの気づきから何かいそうな場所に目星がついた山本さんが周辺の地図を持ってきた。


「あいつが逃げ出した桐の木の林の近くには先祖が使ってた井戸があるんだよ」


「あいつを捕まえようとしたら、他の奴に比べて偉く飛んでたし、もしかしたら井戸の中に潜んでるのかもしれん」


「早速確認しに行きましょう」


三人で慌てて家を飛び出し、井戸の方へと走って向かった。


「ここが井戸だ」


持ってきた懐中電灯で井戸の中を照らしてみると、中に鶏の羽根らしきものは確認できたが、鶏の姿は確認できなかった。


「羽根だけあるな」


「そうですね・・・いや!まずいぞそれは」


「それって外にいるって事だもんな」


ことの重大さには気づいても、闇雲に探して見つかるものでもないためどうするか三人で焦っていると、向こうから火事だと叫ぶ声が聞こえた。


「くそっ、遅かったか」


三人で走って、声のした場所へと向かうと、すでにかなり火が広がっており、近づくことは不可能になっていた。


「あーくそっ、どうしようもないがとりあえず消防車呼べ」


「俺は近くにあるホースここまで持ってくるから」


山本さんは僕たちにそう指示して、ホースを取りに走って行った。


僕は、原因と思われる鶏の捕獲のために、鋳型さんに通報を任せて火事現場の全体が見渡せる場所へと移動した。


よーく目を凝らして火事現場を見渡すと、火が急速に広がっている場所があり、よーく見るとそこには動く何かがいる事が分かった。


「見つけたぞ!絶対に捕まえる」


僕は今回の取材にあたって特別に持ってきたとある札を体に貼り付けて炎に飛び込む。


「よし、これでしばらくは持つはずだ、それまでに捕まえる」


しかし、炎の中でのチェイスという問題は解決したものの、その鶏の動きは本当に俊敏で、全く追い詰められる様子なく余裕で僕から逃げ続けている。


「くそ、どうすればいいんだ」


苦戦を強いられ、僕は一度対策を考えることにした。


「鶏が寄ってくるもの・・・そう言えば鋳型さんが新幹線でなんか言ってたな」


「昔の家なんかはどこも鶏飼っててね、うちの奴は鰹節なんかあげるとすごい喜んでたよ」


「だから他の餌に混ぜておくと律儀に鰹節しか食わなくて困ったね」


「こいつもそうかわからんが、試してみる価値ありか?」


一度追うのをやめて、僕は山本さんの家に戻り鰹節を探す。


「よし、あったぞ、あとは逃げるまでに急いで行かなければ」


また一目散に家を駆け出して、火事になっている林に向かったが、ちょうど消防隊がついたようで近づく事ができなくなってしまった。


「くそっ、逃げられたか」


三人で家に帰ると、次の時のための作戦会議を早速始めた。


「今回火事になった場所的にも、井戸には戻ってこない気がするなぁ」


「そうなんですか?」


「あぁ、井戸とは全くの逆方向だしな」


「そうなると間の場所で火事にならなかったのが不思議ですね」


「確かにそうだが、あいつはなぜか普通の鳥並みによく飛ぶから間は飛んで移動していたのかもしれん」


「なるほど」


「というか、元輿さんが手に持ってるのって?」


「あぁ、鋳型さんが昔買ってた鶏は鰹節が好きだったって言ってたので試しにと」


「覚えてたんですねぇ」


「捕まえれなくてどうしようか悩んでいたらふと思い出して」


「ちょっと鰹節貸してくれ」


山本さんがそう言い、鰹節を持って廊下へ出た。


「どこに行くんです?」


「ちょっとしたテストだよ」


そう話す山本さんに僕は着いていくと、そこは養鶏場だった。


「ほら、お前らご飯だぞ」


そう言って鰹節を少し出すと、鶏たちの食いつきが良く、かなりの勢いで鶏が押し寄せていた。


「初めてやってみたけど食いつきいいな、よし、これ使って罠張るか」


「なるほど、テストっていうのはそう言うことだったんですね」


一度もこの餌をあげたことのないここの鶏ですら食いつきがいいのならきっといけるだろうと踏み、僕たちはどこに罠を張るかを考えることにした。


「今回火事が起こった方向から、元輿さんが逃げて行ったと言った方向で考えると、この奥あたりに洞穴があるんだよな」


「前に井戸にいた事を考えると、次はここにいる可能性が高いですね」


「あぁ、だからこの辺を重点に置いて罠を配置しよう」


翌日、三人で洞窟の近くに向かい、洞窟の入り口の手前から少し外の方まで鰹節を巻いてここに出てくるのを待つことにした。


「なんか食べないわけにはいかんからな、きっと出てくるぞ」


「そうですね、そこをなんとか捕まえましょう」


僕はすでにお札を体に貼ってあるので、この二人にはきっとバレないだろう。


しばらく待っていると、鶏の鳴き声が洞窟内から聞こえ始め、だんだんとその音が近づいて来ていた。


「よし、来たぞ」


そうして洞窟の中から出て来た鶏を見て僕たちは驚愕した。


前見た時は炎の中だったため気づかなかったが、体毛は赤くなり、鶏冠に至っては、青や緑などの様々な色が並んでいて、色合いだけで言えば本物の鳳凰のような見た目に様変わりしていた。


その強烈な見た目に一瞬惑わされたが、僕は気を取り直して鶏に一気に距離を詰める。


他の二人も続いたが、やはり熱波に圧倒されているようだった。


「よし、掴んだぞ」


僕は鶏を捕まえて押さえ込むことに成功し、二人に用意していた金属製のケージを取ってくるように言った。


「くそ、思ったより力も強いし、札を貼っているのにかなりの熱を感じる、それにどんどん熱くなって来てないか?」


力と熱さで思わず手を離したくなったが、それを必死にこらえて押さえ込む。


しばらく押さえ込んでいると、ケージを持った二人が走って来ている。


「早く、どんどん表面の熱が上昇していて溶けそうだ!」


そう呼びかけられ、二人が最後の力を振り絞ってペースアップをしてくれたが、この状態で冷静に鶏だけをケージに入れられる自信がなかった僕は、苦肉の策として自分ごとケージに飛び込んだ。


「元輿さん!?なんで」


「この力と熱さを持ったこいつを押さえ込んでおくのでやっとだったから仕方ない、幸い大きめのケージを選んでいたからこいつとの密着状態からも解放された」


「だが、ここからさらに熱が強くなる可能性があるから僕の分さらに重くなっていると思うが頑張ってくれ」


そう言われ、二人はまた林の中を鶏一羽と人が一人入ったケージを持って全力疾走する


なんとか林を抜け、家の方まで戻ってこれたが、ここからどうやって僕だけ抜け出そうか。

正直言って、多少距離を空けておけるにしても、熱すぎて今にも溶けそうだった。

頭がぼんやりして来ながらも必死に脱出方法を考えていると、ケージを置いた後どこかに一目散に向かっていた山本さんが走りながら叫ぶ。


「元輿さん!そいつの首を掴んでケージの外に押し出してくれ、かなり熱いと思うが一瞬だから頼む!」


そう言われ、僕は火傷覚悟で鶏の首を掴んでケージの入り口の反対側の隙間から頭を出させる。


「よし来た!少しショッキングだが頼むぞ」


そう言って持って来たナタで鶏の頭を切り落とす。


すごい力で暴れていたが、方向がわからなくなったようでケージの壁に何度もぶつかっていたため、僕はその間に命からがら脱出に成功した。


「ふぅ、危なかった」


三人でその場に倒れ込み、しばらくして家で怪我の手当てをした。


「それにしてもあの熱によく耐えたなぁ」


「はは、根性論って本当にあるもんですね」


体に貼っていたお札は焼け落ちて身体中火傷し、服も一部が焼けていた。


その後、三人でお疲れ様の意味を込めて飲み明かし、朝に目を覚ますと、そこにはまさかの光景が広がっていた。


確かにナタで切り落としたはずの頭が再生し、目の前で鶏が普通に生きていたのだ。


「こりゃたまげたな、本当に不死鳥になったのか?」


「みたい・・・ですね?」


三人でケージの前にただただ棒立ちし、ケージを蹴る鶏を見ることしかできなかった。


その後、僕と鋳型さんは仕事の都合上昼頃に新幹線で帰り、東京で鋳型さんとも別れて僕は家に帰った。


「それにしても酷い火傷だ、病院行ったほうがいいかな」


しばらく火傷に悩まされる生活を続けていたある日、ニュースに衝撃の映像が流れた。


「次のトピックです、なんと!ゆで卵を産む鶏が朝日養鶏さんの所にいるんですよね」


「はい、私もたまげましたよ、こんなのが生まれるなんてね」


テレビには、若いキャスターと山本さんが映っている。


「ということで、この噂が本当なのか見てみたいと思います、それでは山本さん、案内お願いします」


「こっちですよ」


そう言って山本さんが連れて行った所には、他のところとは違う小屋にポツリとあの鶏がいた、あの時のケージの中で。


「この小屋は冷房がついているんですね?」


「はい、こいつはそうしないと近づく時に熱くて」


「本当ですか!?それはすごい」


「おっ、今産むみたいですよ」


山本さんがそう言うと、鶏が卵を一つ産んだ。


その卵を、少し熱そうな様子で取り出した山本さんがキャスターに卵を渡す。


「あっ!本当に熱い、それじゃあ殻も割ってみていいですか?」


「どうぞどうぞ」


キャスターが恐る恐る卵の殻に結構な力を加えると、中から黄身が溢れてくることもなく、そこには本当にゆで卵があった」


「えー、すごい!みなさん見ましたか、やらせなしですからね!?」


「みなさんもぜひこの不思議な現象を見たければ、週に一度だけ入場できるそうなのでぜひ来てみてくださ〜い」


「それじゃあ最後に山本さんから何かどうぞ」


「普段は普通に働いてて忙しいから場内の開放難しいですけど、いずれは常時解放も目指して頑張ります」


「おー、それは楽しみですね、ではこの辺で中継お返ししまーす」


「予想も当てて鋳型さん大活躍だったな」


火傷はまだ痛むが、少し明るい気持ちになった。




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