Chapter1 揃え!3つの願い星 5話


「えっ?」


タユとチヒロは、同時にリージアを見た。

リージアは数秒間2人を不思議な顔で見ていたが、つい口から出ていた言葉に気づき、一気に顔を赤くして首を横に振った。


「ち、ちがっ!これはレイジアへの気持ちで…!いや、違くもないんだけど…えっと…えっとだな…」


リージアは吃りながら視線を泳がせていると、観客の方の視線に気づき観客の方へ向いた。


「あっ…!ご清聴、ありがとうございました!あの…はじめに、皆さんに向かって意味わからないことを言ってしまって、申し訳ありませんでした。

でも、実はオレには、双子の兄弟がいて…すっごくそっくりなはずなんです。だから、もし見かけたりしたら、オレに教えてください!すごく勝手なことだとわかってます。でも、生きているのならどうしても会いたい。だから、よろしくお願いします!」


リージアは深々と頭を下げる。会場は静まり返った。

リージアはぎゅっと目を瞑り、客の次の反応を恐れていた。


「…私、友達に聞いてみようかな」


どこからか、女性の声が聞こえ、リージアは顔を上げた。


「私も!あんなに綺麗な子だったら見かけたらすぐ気づくはずだよね」

「俺もちょっとsnsで拡散希望して探してみる!」

「えーっと特徴は…」


その女性の声を筆頭に観客たちはざわめき始めた。

リージアは目を見開いた驚いた顔のまま、呆気に取られていた。

タユとチヒロがそんなリージアの肩に手を置く。


「すごいね…!みんな協力してくれるって!リージアの気持ちが届いたんだよ!」

「オレの…気持ちが…?」


リージアは2人の顔を不思議そうに交互に見てから、またざわめく観客に向き直った。


「そっか…」


リージアはそっと胸に手を当てて、柔らかく微笑んだ。

そうしてから、何か決意したように背筋を伸ばし、タユとチヒロへと体を向けた。


「も、もう仲間って言ってもらってるけど……改めてお願いする」


リージアは2人へと手を差し出した。


「オレも……2人のユニットに入れてください。そんで……友達にも、なってほしい…」


リージアは少し照れくさそうに視線を泳がせてからまたぎゅっと目を瞑り頭を下げた。


「お願い…します!」


タユとチヒロは顔を一度合わせてからにっこり笑いあうと、リージアの伸ばした手をとって引き寄せた。


「わっ⁉︎」

「当たり前じゃん!歓迎するよリージア!ようこそ!えっと……えっと…」


タユは顔を青くしていく。


「ユユユユニット名!まだ決めてないじゃん…‼︎」

「あ、そ、それなんだけど……」


チヒロが小さく手を上げて、タユとリージアはチヒロに顔を向けた。


「ほら、僕、提案があるって言ったでしょ…?あれ、ユニット名についてで…リージアがもし入ったら、2人に言おうって思ってたんだけど…」

「な、何⁉︎早く教えて!」


前のめりに聞いてくるリージアに少し仰け反りながらも、チヒロは小さく気合をいれて手を上げた。


「"STAR☆STARTER(スタースターター)"!

…っと、僕ね、思ったんだ。僕も、タユも…リージアも。みんな、ここから新しくスタートした。そして、それぞれが、それぞれの新しいスタートのきっかけになってる。

星みたいに、輝くための。

だからね、僕たちで、たくさんの人の新しいスタートの応援とか、それだけじゃなくて、誰かのあと一押しの勇気を与えられたらって思って…!そんな願いを込めたユニット名。

……ど、どうかな?あんまりこういうセンスなくて…――」

「採用‼︎」


チヒロが言い終わる前にリージアがチヒロと同じように手を上げて大きな声を出した。

リージアは興奮気味に目を輝かせている。


「最っ…高!すっげーいいよそれ!めっちゃ気に入った!略したら……スタスタ?な、タユ!」

「うん…!チヒロくんらしいユニット名だし、僕らにぴったりですっごいいいと思う…!」

「2人とも…」


チヒロは、リージアとタユの様子に、鼓動が高鳴った。

嬉しくなって2人の腕を抱き、ステージの前に出た。


「みなさん!今日はお集まりありがとうございましたーっ!僕たち、"STAR☆STARTER"をこれから、どうか、よろしくお願いします!」


チヒロに合わせて、タユもリージアも一歩前に出て頭を下げた。


「よろしくお願いします‼︎」


大きな拍手が上がった。

中央のレインボータワーのモニターにも、3人の様子が映し出されている。

こうして、3人は正式にユニット名を掲げ、活動が始まった。







どこかの、冷たい風が通り抜ける小汚く薄暗い路地裏で。

ペールを風除けに座り込む少年の顔を、小さな液晶から発される光が映し出していた。


「リー…ジア…」


少年の額を涙が伝う。

その隣で周りを警戒している黒いパーカーの男が、ふと少年に目を遣った。


「そろそろ見張り交代だよ、"レイ"。俺の端末返して」


少年は電源を切ると、その液晶から光が消えるのと同時にその表情を暗くした。そうして、ワインレッドのパーカーのフードを肩へ下ろし立ち上がった。


「おい…無闇にフードを外すな」

「契約は終わりだ。ボクの探していた子が見つかった」


男は眉を少し寄せた。

少年は彼に、雑に端末を投げ返した。


「じゃあね、もうお前に協力する必要も無くなった」


少年は路地裏から出て行こうとした。

すると、それを黙って見ていた男が口を開いた。


「…待ちなよ。君は俺の目的を果たすまであの子には会いに行けないはずだよ」


少年は足を止めた。

振り返らずに口を開く。


「…どういうことだ」


男は余裕がある様子で、乾いた笑いをこぼしてみせた。


「だって、今まで何してたんだって言われたら、どう答えるつもり?それに……その"目"」


少年は少し肩を震わせて動揺し、右目に当てた眼帯をそっと撫でた。男はその様子に不敵な笑みを浮かべた。


「元々持ちつ持たれつで交わした契約だったことを忘れないことだ。大丈夫、君の目的には最後まで協力する。だから、君も俺の目的に最後まで協力してくれよ。…ね?俺の愛しい"レイ"」


少年の首に後ろから腕を回し、蛇が巻き付くようにゆっくりと、男は彼を抱きしめようとした。

少年はその手を振り払う。


「…ただの契約関係だろ、やめろ。」

「やだ、もしかして俺のこと意識しちゃってる?」

「調子に乗るな、殺すぞ」


少年は素早く懐から折り畳みナイフを出し、男に向かって刃を向けた。男は両手を軽く上げて「冗談」と余裕綽々に笑った。

少年は心底不機嫌そうに大きくため息をついた。


「…ほんと、死ぬより地獄だよ」

「ま、わかってくれたならいいよ。いつもありがとね」

「フン」


少年はナイフをしまい、フードをまた目深に被った。


すると、2人は何かに気づき、素早く物陰に隠れた。


「……2人」

「ああ」


その会話のすぐ後に、路地裏の先の深い霧から、化け物のように脈が浮き出、黒目が瞼の内側に潜り込んだままのヒトが奇声を発しながら、奇妙な足取りで駆け込んできた。


男が手前のヒトをピストルで一撃で殺すと、そのすぐ後から続いてきたヒトを、少年がその懐に潜り込むようにして、ナイフで急所を切り裂いた。

少年はその返り血を被る前にヒトの懐から離脱するとナイフに付着した血を振り払い、しまった。


「彼らもまた、被害者だ。」


男はしゃがみ込み、口を開けて恐ろしい顔で倒れているヒト2人を、端末で撮影した。

少年は不快そうにタートルネックを鼻元まで上げて顔を顰めた。


「…ムジカって最悪だ。なんで幸せになれなかったらこんな風にならなきゃいけないんだ」

「ああ。本当に、そうだよ。」


そう言いながら立ち上がり、男は少し靴の裏についた血を「おっと」と言いながら石畳に擦り付けた。


「白々しいな」

「じゃあお前もナイフの血払うなよ」


男はヒトの開かれた瞼をそっと手で閉じさせると、その死体を踏み、飛び越えて路地裏の出口まで行く。


「報告されている暴走個体は今ので最後だったみたいだし、移動しよう。"レイ"」

「…了解」


少年は先を見て少し考えてから、死体を踏まないようにして男の元へ近づいた。


「……どんな手を使ってでも、君に会いに行くよ」



「――リージア」


深く濁った鼠色の霧の中に、2人の人影が消えていった。




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