Chapter1 揃え!3つの願い星 4話
『リージア様、お客さまです』
家に取り付けられているAIの防犯装置が、リージアを起こした。
リージアは後頭部を掻きながら上半身を起こした。
「…出前以外は断れって言ってるだろ」
『しかし、お客様です。以前リージア様が我が家にお通しになった齢20才前後の男性お二方でございます。ただいま、過去のデータからIDを参照します』
「…ぇあ、おい、待て」
ピピピと小さな機械音をAIが立ててる間にリージアはベッドを飛び降りて玄関まで駆けて行った。
『…参照共に解析完了。タユ様、年齢20歳。チヒロ様、年齢17歳。一致率100%。変装、成りすましの可能性0%。殺意等危険な感情の感知、なし。お通しになっても問題はございません。念の為、半径300メートルの範囲に警備システムを設置要請いたしますか?』
「…いや、いい」
リージアは玄関の外の様子が見えるカメラの映像を見て、首を横に振り、ドアノブに手をかけた。
あれから1週間程経った。
正直もう諦めたのかともリージアは考えていた。
ドアを開けるともう見慣れた顔ぶれは少し安心したように表情を綻ばせた。
「か、歌詞…!できたから、見て欲しい!」
☆
そのさらに1週間後。
リージアは舞台袖の上部な機材の上に座り、肘を膝に置いて考え込むような姿勢をとっていた。
「リージア、大丈夫?」
「ああ…うん」
チヒロが少し体を傾けてリージアの顔を覗き込んだ。
「レインボータワー!……の、少し離れたところにある公園だけどさ、ここ…憧れの中心街でライブができるのは、なんか嬉しいよね、タユ」
「う、うん、僕はいつもの場所じゃないから、ちょっと緊張するかも…」
「え、ぼ、僕も緊張してるんだけど…⁉︎」
2人の呑気な会話を、リージアは横目に見ながら聞く。
3人はとある理由からポートパークのあるツリーズポートから離れ、中心街であるセントラルツリーパークまで足を伸ばしていた。
―――
『り、リージア…!どうだった――って、わ⁉︎どうしたのリージアその顔…‼︎』
歌詞を読み終わり、2人の前に現れたリージアは、腫れた目で2人をじとっとした目で見据えた。
『……なんだよこれ、お前らの曲じゃねーじゃん』
『あ、う…だってそれは、レイジアさんに向けて……』
リージアは歌詞の載ったタブレットを玄関のシェルフの上に叩きつけるように置いた。
タユとチヒロは怒られると思いぎゅっと目を瞑った。
『バカやろー!俺のため"だけ"の曲になったらもう使い捨ての曲になっちまうだろうが!せっかくそれ以外はめちゃくちゃいい歌詞なんだから改良して仕上げるぞ!…っあ〜もうほんと思い出したらまた…』
リージアは2人に背中を向けて目を擦った。
2人は数秒間瞬きをしてから、同時に顔を合わせると、同時に表情を明るくした。
『きょ、曲作ってくれるのーー⁉︎』
『うるさい待て。ただし条件がある』
リージアがはしゃぎ出す2人を止めると、2人はキョトンとした。
『なるべく人が集まる場所で―――これを歌いたい』
―――
「わ…わ!お客さん、すごい集まってきた。ポートパークより狭い場所なのにすごいね…さすが都心…」
「え〜…⁉︎チヒロくん、どうしよう、足震えてきたよ…」
「2人とも」
リージアの、冷たい氷の切っ先のような凛とした声は、2人の背筋を一瞬で伸ばした。
「2人のステージなのに、俺も参加させてくれて、ありがとう。
タユに発破かけられて、2人の歌詞に掬い上げられて、俺は今度こそ前を向こうって決められた。
だから、最後に、もう一回だけ力を貸してくれ、頼む」
2人の肩に手を乗せ、リージアは俯いている。
その肩に乗せられた手は、こんなにも細く、小さかったのかと2人は気づく。そして同時に、その手が小さく震えているのにも気づいた。
「リージア」
チヒロはリージアの背中に手を添えた。
「君がタユを助けてくれなかったら、僕は今ここにいなかったと思う。でもね…正直、ちょっと悔しかったんだ。僕はリージアみたいに強くないから…タユの気持ちに気づいてあげられなかったし、君がいなかったらタユは、死んでいたかもしれないことが。でも、君は別に特別強くなんかなかったね」
リージアが顔を少し上げると、チヒロが微笑みかけた。
「ありがとうリージア。君を、絶対明日へ連れてってあげる。もちろん、タユとね!」
「チヒロ…」
チヒロがリージアの片手をとって、自分の手と繋がせた。
「リージア」
タユがリージアの背中に手を置いた。
リージアはタユの方を向くと、タユもリージアに微笑みかけた。
「君に出会って、死のうとしている僕を君が叱ってくれた時は、君がそんな過去を背負って生きているなんて夢にも思わなかった。気持ちは、よく、わかっているつもり。それでもね、音楽を楽しそうに語る君のことを思ったら、僕は自分勝手だけど、どうしても前を向いて欲しい、しっかりと向き合うべきものに向き合って新しい道を進んでほしいって思ったんだ。
歌詞を書いている時、レイジアさんのことを大切に思う君と、僕たちの、君と一緒に歌いたい気持ちをずっと頭に浮かべて書いていた。そしたら…結果君"だけ"の歌になった。
当たり前だよね、君のために書いた歌詞だ。
でもそれを君は、『使い捨ての曲になるから』と怒った。
本当に音楽を大事にしているんだね。
どんな時でも歌はたくさんの人の中で生きていてほしいものって君の考え方が伝わってきて、本当に君は優しいんだなって思った。」
タユはリージアのもう片方の手をとって、自分の手と繋いだ。
「行こう。レイジアさんと、聴いてくれるみんなのために。心に届くように。僕たちなら、絶対にできる!」
「タユ…」
リージアは交互に2人の顔を見た。
2人もそれに合わせて交互に微笑み頷く。
そうして3人で最後に頷くと、ライトで照らされているステージに走り出た。
3人は顔を見合わせ頷き、最初に口を開いたのは、リージアだった。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。でも、すみません、しばらく皆さんにとって意味わからないことを言うと思います。その後最高のパフォーマンスするんで、少しお時間ください。ごめんなさい」
ざわざわと困惑の人々の声が広がるより先に、リージアはすぅっと勢よく息を吸った。
「レイジアーーーッ!俺はここにいるぞーーッ‼︎おまえはどこにいるんだよーーー!」
声が裏返りながらも気にせず叫ぶ、聞いたことのないほど大きな声を出すリージアに、タユとチヒロは驚いて彼を見た。
「いい、どんな姿でもいい。俺の知らないお前になってても、骸骨でも、穴だらけでも、どんなでもいい‼︎お前に会いたい!会って、あの日のこと謝りたい!謝って、そんで、俺なりにレイジアとどんな関係になりたいか、考えた答えを言いたい!だから、だから…!」
そこまで言って何度か呼吸を置いた。
静まり返っている観客側に向かって、再び口を開いた。
「お前が俺を見つけられるように、俺、歌うから!どこかで聞いていてくれ!そんで、顔見せろ!行けないなら、俺が行く」
リージアはそう言うと、チヒロとタユの腕をぎゅっと抱き寄せた。
「こいつらと……お前を見つける‼︎」
タユとチヒロは呆気に取られたように黙って少しの間リージアを見つめてから、2人で頷き合い、リージアを抱きしめた。
「リージア!歌おう!僕たちと!」
「どこまでも飛んで行けるメロディーを!」
リージアは一瞬目を潤ませたが、すぐにいつもの凛々しい表情に戻り、元気よく頷いた。
「ああ…!―――みなさん、聴いてください!」
3人は声を合わせた。
「『YOUR SONG』」
前奏が始まる。
前奏は20秒間ほどあり、その間はダンスだ。
ダンスが苦手なタユは一歩後ろ、センターで前で踊るのは振り付けも直ぐ覚えたリージアだ。チヒロはタユと並んで一歩後ろで踊る。
そのまま歌い出しのリージアに繋がる。
「『土砂降りの中 さした傘
君のためにさしたのに 隣に君はいない』」
アップテンポだが、ピアノが主旋律を奏でるそのメロディーは歌詞の切なさをよく表している。
リージアのミューズは、『スコアリング』。
それは、対象となるテーマや事物に集中すると、自分の中でのそれらのイメージがメロディーとなり、ミューズの力でそれらを上手く紡ぎ、曲にするという作曲に特化したミューズだ。
次のパートはチヒロなのでチヒロがリージアに代わって前に出る。
「『どこにいるんだろう 空の果てから
君を月に腰掛け探す僕 土砂降りなのは僕の方だった』」
チヒロの透き通った歌声は幻想的な歌詞を強調させ、彩る。
(こいつの歌声、本当に好きだな。ずっと聴いていたくなる)
リージアは薄ら微笑んで後ろで踊っている。
次はタユのパート。チヒロの隣に並んで、アイコンタクトし、歌い出す。
「『君を見つけなければ 雨は止まないなんて
神様が言ったから 君を探す理由はなんだったっけ』」
タユの優しく穏やかな歌声は、歌詞の哀愁に少しそぐわないところが良いスパイスとなっている。チヒロと会話するような振り付けで、タユが少しおぼつかないところはチヒロが大きく動いてカバーをしている。
(柔らかくて包み込むような歌声…タユももっと自信を持てばいいのにな)
リージアは2人の間へ、後ろから出てきてゆっくり並ぶ。
スポットライトがリージアと共に前に出る。
「『帰る場所さえ忘れて 前に進むことしかできなくなって』」
サビ前の歌詞をリージアは、強く感情を乗せて歌い上げた。
サビにかけて盛り上がりが最高潮になると、3人の足元から光が湧いてくる。
「『YOUR SONG
君を照らす歌 星あかりがこの歌を聴いて
君を照らすから すぐに会いに行こう』」
チヒロがミューズの力に集中すると、チヒロは青い光を纏い、それは輝く翼へと変わった。
「『迷えば朝の風と鳥が導いて』」
チヒロが青い光の粉を振り撒きながら羽ばたき、リージアへと手を伸ばした。
リージアがそれを掴むと、チヒロのミューズの光を受け取ったリージアの背中に、薄桃色の光の翼が生えた。
「わっ――⁉︎」
「大丈夫。僕たちを信じて」
チヒロが頷き、タユへ視線を送ると、タユは溢れる若草色の光を纏った腕を、弧を描くように振った。
「『寂しい夜は流星と共に空を駆けて』」
タユの描いた弧の軌跡は大きなエメラルドグリーンの流星となり、遠くからこちらに流れてくる。
タユが2人の手を取ると、3人はエメラルドグリーンの流星に飛び乗り、七色の光の粉を撒きながら観客の上を巡った。
「『ほらね もう君は1人じゃないから
大切な仲間と大切な人を探そう 枯れ果てた道もこんなに輝いて見えるから』」
そう歌うリージアの声は踊っていた。
リージアは心の底から歌うことを楽しんでいた。
ずっと1人で音楽をやっていた。
あの日からリージアの止まっていた何かの時間が、動き始めたような気がしていた。
「『帰る場所がないなら ここに作ればいいよね
前に進むことしかできないなら 振り返る必要はないよね
君を探す理由は 簡単なこと そう』」
3人は顔を合わせて笑い合った。
リージアの瞳から溢れる涙をも、流星の輝きに溶け合わせ、より一層彼らを輝かせる。
「『君に会いたいから
君に届ける歌 YOUR SONG』」
タユが宙に指を滑らせ絵を描くと、それは高く空に舞い上がり、3人のミューズの色の花火へと変わった。
観客たちは歓声を上げる。
騒ぎを聞いてどんどん人が集まってくる。
(レイジア…お前が俺のことをどう思っていたとしても、もう恐れない。勝手にお前が俺を憎んでいると思い込みすぎてお前のありもしない姿を思い浮かべていたのは、俺の弱さだし、お前に1番失礼なことをしていたんだって、今は思うよ。
ごめん、レイジア。
きっとお前は、今でも俺を幸せにするために、どこかで俺を心配してるはず。お兄ちゃんぶって、さ。
あの時お前にどうして欲しいのかって聞かれて、わからなかったけど、今はきっと、お前とかけがえのない唯一無二の親友でありたかったんだって、そう思うんだ。
なぁ、レイジア。
次会ったら――)
「俺と…友達になって欲しい」
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