第9話 しばらく会えなくなる
不安、心配
そんな気持ちばかりではない
きっと大丈夫 そう思って
今日も筆を走らせる
「仕事で海外に行ってくる。長期になりそうだ。」
ヴェルカからそう言われた。
いきなりだった。
「そ、そうなのか。どのぐらいかかりそうなんだい?」
「1か月。長くて3か月はかかるだろう。」
「ずいぶん長いね。寂しくなるな。」
僕がそう言うとヴェルカは僕の方を不意に見て。
「寂しい?ふん、いくらミスターといってもそんなやわではあるまい。」
ふわりと笑うその顔を見ると寂しいという気持ちはフッとなくなる。
「ヴェルカさんは僕をなんだと思ってるの?」
精一杯の笑顔で、ヴェルカに近づいて髪をなでる。
「愛してる妻と離れるんだから、寂しくなるのは当然だろ?」
僕がそう言うとヴェルカの顔からは笑みが消えた。
僕は、仕事モードに入ったことを察した。
「私は部屋に戻って、準備をする。入ってくるんじゃないぞ。」
そういうと自分の部屋に入っていった。
僕も仕事部屋に行って、筆を走らせる。
しかし、すぐに手は止まってしまう。
きっと暗殺の任務なんだろう。今まで3か月だなんて長期の仕事をすることは出会ってからなかったため。僕にとっては長く会えなくなるのは、ほぼ初めてだ。
しばらく会えなくなるのか。
いや、しばらくどころではない。もう一生あえなくなるかもしれない。
暗殺の腕はピカイチのヴェルカだからいつもこんな心配をすることはない。
だけど、しばらく会えないからそんなことを考えてしまったのかもしれない。
もしこれで会うことが最後になるならいい最後にしたい。
僕はいてもたってもいられず台所に向かった。
しばらくして、僕はヴェルカの部屋の扉を叩く。
「ヴェルカさん。ちょっといいかな?」
扉越しに声が聞こえた。
「なんだ。」とても冷たい声だった。
「アップルパイを作ったんだ。3時は過ぎたけど、おやつにしないかい?」
戸が開き、ヴェルカが出てくる。
「いいだろう。」
二人でアップルパイを食べながら、ゆっくりした時間を過ごす。
アップルパイにロイヤルミルクティーといういかにも洋風のティータイムだ。
「いつ出発するんだい?」
「今日の深夜だ。」
「早いね。」
「見送りはいらんぞ。」
「そんなこと言わないでよ。見送らせて」
笑顔を浮かべているつもりだが、自分はうまく笑えているだろうか?
「そうか」
その後の話はしなかったが、ゆったりとしたいい時間を過ごせたと思っている。
これで僕は満足だ。もし最後になっても
深夜
スーツケースと大きいバックをもってヴェルカは玄関に立っていた。
靴を履いて、厳しい顔を維持している。
「見送りはいらんといったはずだが」
「見送るよ。…見送らせて」
振り向きもしないヴェルカ。その後ろから抱きしめる。
「な、何のつもりだ!」
「好きな人とハグすると、リラックスするんだって。」
「お前はただのターゲットだ。」
そういいながらもヴェルカは僕の手に手を重ねる。
しばらくして
「もう十分だ。」
ヴェルカが玄関を開ける。
「いってくる」
「いってらっしゃい」
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