第4話 夫の趣味は仕事になる ヒーロー編+妻視点

仕事のもモチベーションが上がるかっこいいフィギュアが棚に並び

四季を感じる色とりどりの花

目にも心の保養にもなるこれらのものを

殺しそうな目で見る男の目があった。


 僕の趣味の話をしよう。

 僕の趣味は特撮とガーデニング。オタクとは思ってはいないが周りからはオタクと 呼ばれている。

 これらは僕の生活と心身を豊かにしてくれる。仕事は好きだが、好きなものもずっと触り続けると疲れるものだ。だから、仕事とは別の趣味は生きてく上では必要だと思っている。

 そんなある日、ヴェルカが僕の趣味について聞いてきた。理解されようとは思わないが、それでもどんな良さがあるのか語るのは良いことだ。僕たちは出会ってすぐ結婚したから、意外にまだお互いのことを知らない。それに暗殺者のヴェルカは、おそらく自分のことは自ら語らないだろうから、僕から彼女に歩み寄る必要がある。そのいい機会だ。


特撮について

「ミスターの趣味について詳しく聞きたい」

 8月の暑さもピークの時期に彼女はそう言ってきた。ちょうど2人でお昼ご飯にざるうどんを食べていた時のことだった。いきなりのことで手が止まってしまった。普段、僕のことをあまり直接的に探らない彼女だったから珍しかった。

「いいけど…珍しいね。」

「まぁ、暗殺対象の趣味やらについて知っておくのも仕事だ。暗殺の成功率を上げれるからな。」

「ストイックだね~」

 少しだけ目が泳いでいたが、もしかしたら、普段こういう風に聞かないから緊張したのだろうか。

 どんな理由であれ、僕がヴェルカの暗殺対象であることは変わらない。それでもいい機会だ。

「僕の趣味は特撮と…ガーデニングかな?」

「なぜ最後だけ自身がなさげなんだ。」

「特撮は趣味ってはっきり言えるんだけど、ガーデニングはちょっと違うと思ったから。でも、大きく見れば趣味か」

 ちょっと苦笑いしながら答える。そうガーデニングだけはちょっと違うのだ。

「まぁいい。ではまず特撮について教えてくれ。」

「いいよ。まぁ、簡単に言うとヒーロードラマだね。」

「詳しくと言ったはずだ。」

「いきなり詳しく話すと、何にも知らない人はホントに何言ってるか理解できないから、始めは簡単に概念だけ知っておくことをお勧めするよ。ホントに詳しく言うと、長いし…」

「ミスターはオタクだもんな?」

「そうかな?でも、高校のころ詳しく話し過ぎて、誰も話題についてこれなくて、その後、悲しい出来事が起こったから、その時の経験を活かしているだけだよ。」

なんか悲しくなってきた。泣きそう。

「そ、そうか…」

 若干引いてるよ!これ以上株を下げるわけにはいかない!

「だから簡単に言うとヒーロードラマ。」

「それは仕事部屋に置いている人形も関係してるのか?」

「うん。あれはフィギュア。ヒーロー達の人形だよ。あれがドラマでは、悪い敵を倒したりするんだ。」

「たしか日曜日の朝に、ミスターはいつもテレビにかじりついてるな。あれか。だが、あれは子供番組ではないのか?」

 来た!得策好きになってから1000回ぐらい聞かれた質問。

「確かに子供向けに作られてるけど、決して子供番組ではないよ。」

「?」

よく分からないって顔してるな…

「年齢によってみる視点が変わるから面白いのさ。子供のころは、変身して戦うヒーローを楽しみにしてみるけどストーリーはあんまり重視してみる子は少ない。でも、大人になってから見るとドラマの内容にも目が行くからより濃厚なストーリーに引き込まれて行って、はまるんだよ。」

「なるほど。言いたいことは分かった。」

「さすが」

「つまり。子供のころは銃って見た目がかっこいいと思うが、暗殺者になると銃の種類や形、部品や性能などに目がいくようになるということか。」

「なんか物騒なこと言ってるけど、まぁ、つまりそういうこと」

 なんか怖いこと言ってるな。僕はあまり銃とかのことは分かんないけど…でも、今度聞いてみよう。いつか話してくれるかもしれないし。今聞いても「敵に、手の内を明かす暗殺者がどこにいる」と怒られてしまいそうだ。

「たとえば、どんなHeroがいるんだ?」

 ここは百聞は一見に如かずということで仕事部屋に案内した。

 仕事部屋の棚には仕事のための参考資料と、フィギュアがたくさん並んでいる。

「それぞれが、シリーズ物でね。集団で戦う戦隊とか、人類のためにそれぞれの目的のために戦う人たちや宇宙人なんかもいる。」

「この虫みたいなのは?」

「これはバッタがモチーフのヒーローで、改造人間なんだ。バイクに乗って風の力で変身して、必殺技のキックで相手を倒す。」

「このカラフルなのは?」

「これは恐竜がモチーフの戦隊。電池みたいなアイテムと銃で変身するんだ。」

「色が違うだけで、形は一緒じゃないか」

「実は全然違うんだな。」

 なんだかだんだん楽しくなってきたぞ。誰かに趣味のことについて話すのはいつぶりだろう。

「おい、なんでこのバッタのヒーローの人形が2つもあるんだ?どれも一緒だろ。1つで十分だ。」

「いやいや、これは実は違いがあって…」

あれからなんやかんや喋ってしまった。

 気づいた時には、初心者がついていけない領域の話までしてしまっていた。しまったと思ってヴェルカのほうを向くと、僕の方をじっと見て、微笑んでいた。

「えーと、ごめん。」

「っふふ」

「え、なんで笑ったの?」(かわいい)

「いや、なんだ。今まで見たことないぐらい目が輝いていたからな。いいものが見れた。」

 そういう彼女もいつもは見せないような顔をしていた。愛おしくクスッと意地悪そうに笑う。なんだか可愛すぎて直視できなくなり、ゆっくり手で目を覆った。

「保養になる~」

「人形を見ただけでか?」

 そうじゃない!そうじゃないんです!あなたが可愛すぎるからいけないんです。あー覗き込まないで。死ぬ。


「しかし、人形を見るだけではいまいち分からんな。たしかドラマと言っていたな。見せてみろ。」

「え、一緒に見る?!」

「そ、そういっている。」

「あーでも、1作品50話ぐらいあるよ。」

「ちょっとずつでいい。 一気に見てしまうと、ミスターのその顔が見れなくなるからな。」

「何か言った?」

「いや?」

 なぜか彼女は少女のように意地悪に笑う。

「おすすめのはなんだ?」

 早速リビングに行ってDVD置き場からごそごそと探し出す。

「そうだな~ヴェルカさんがどういうのが好きかわからないけど、初めて見るならいいのが…」

「このトカゲみたいな顔した奴はどうだ?なんだか、バイオレンスな設定みたいだな。」

「絶対ダメ!!!」

 普段声を荒げないぼくが珍しく大声を張り上げてしまった。

「そ、そうか」

 ほら若干引いてるよ~。

「そ、それよりこっちの方がおすすめ。探偵ものだから、楽しめると思う。」

「ミスターが選んだものでいい。そうやら、こういうのは詳しい人に任せるのが一番いいようだ。」

 いやー、危なかった。もうすぐでヴェルカさんの暗殺者の血を騒がせちゃうところだった。

「何かつまめるものでも用意しよう。」

「僕が作るよ。ポップコーンでいいかな?」

 そうして2人でヒーローものを見た。案外ヴェルカさんも真剣に見ていた。

 後日、庭で訓練をしているヴェルカさんを見た時、見たことがあるような長物の使い方や、体術を使っており、僕はとんでもない殺し屋を育ててしまったのではないかと戦慄することになる。


妻視点

仕事部屋に似たようなフィギュアが棚に並び

時の移り変わりを感じる花

一人の男がこしらえたこれらのものに触れたことで

男の横顔がまぶしくて


 私はあることをふと考えた。

 仕事では、ターゲットをただ殺すのではなく、近づくために様々な工夫をするものだ。

 近づくためにプロモーションを整えたり、趣味について調べたり、勉強したり…

 そんなことをミスター柊にはしていなかったと

 いつも近くにいるからと言ってすべてが分かるわけではない。幸いミスター柊は私のことをあまり警戒していない。妙な探りを入れるよりストレートに聞いたほうがいいだろう。

 というのは一応目的の一つではあるがもう一つ目的がある。


 彼のことについて知らなすぎるのは妻失格なのではないだろうか

 これではあらゆる情報を使いこなす凄腕暗殺者の名が廃る。ミスター柊の好きなことを把握して胃袋をつかむ!…はムリだけど、彼に一歩近づけるかもしれない。だからさりげなくお昼ご飯の席で聞いてみることにした。

「ミスターの趣味について詳しく聞きたい」

 何やらミスター柊の手が止まってしまった。ストレートに聞き過ぎたか

「いいけど…珍しいね。」

「まぁ、暗殺対象の趣味やらについて知っておくのも仕事だ。暗殺の成功率を上げれるからな。」

「ストイックだね~」

 なぜか目が泳いでしまった。 あー!趣味を聞くだけだろう?!なぜこんなにドキドキしている!…心臓発作か?

「僕の趣味は特撮と…ガーデニングかな?」

「なぜ最後だけ自身がなさげなんだ。」

「特撮は趣味ってはっきり言えるんだけど、ガーデニングはちょっと違うと思ったから。でも、大きく見れば趣味か」

 ちょっと苦笑いしながら答えてくれた。

「まぁいい。ではまず特撮について教えてくれ。」

「いいよ。まぁ、簡単に言うとヒーロードラマだね。」

 すごく端的に言われてしまった。まずいこのままではここで話が終わってしまうことがある。普段話を広げるのはあんまりしないからどうしたらいいか分からん。暗殺技術では、もちろん話を広げる方法はあるが、日常会話で使うのはあまりに不自然だ。

 だが、知らない以上技術に頼るしかないか…少し脅すように…

「詳しくと言ったはずだ。」

「いきなり詳しく話すと、何にも知らない人はホントに何言ってるか理解できないから、始めは簡単に概念だけ知っておくことをお勧めするよ。ホントに詳しく言うと、長いし…」

「ミスターはオタクだもんな?」

「そうかな?でも、高校のころ詳しく話し過ぎて、誰も話題についてこれなくて、その後、悲しい出来事が起こったから、その時の経験を活かしているだけだよ。」

「そ、そうか…」

 え、なんか妙な説得力が襲ってくる。ミスター柊にいったい何があったんだ?

「だから簡単に言うとヒーロードラマ。」

 ヒーローというとたしかミスターの部屋に武装した人形が置かれていたな?

「それは仕事部屋に置いている人形も関係してるのか?」

「うん。あれはフィギュア。ヒーロー達の人形だよ。あれがドラマでは、悪い敵を倒したりするんだ。」

「たしか日曜日の朝に、ミスターはいつもテレビにかじりついてるな。あれか。だが、あれは子供番組ではないのか?」

 なんだか、今の糸ことで地雷を踏んだのか、ミスター柊の眼がギラリと輝いた。

 待ってましたと言わんばかりの顔をしている。

「確かに子供向けに作られてるけど、決して子供番組ではないよ。」

「?」

 こいつはいったい何を言っているんだ?

「年齢によってみる視点が変わるから面白いのさ。子供のころは、変身して戦うヒーローを楽しみにしてみるけどストーリーはあんまり重視してみる子は少ない。でも、大人になってから見るとドラマの内容にも目が行くからより濃厚なストーリーに引き込まれて行って、はまるんだよ。」

「なるほど。言いたいことは分かった。」

「さすが」

「つまり。子供のころは銃って見た目がかっこいいと思うが、暗殺者になると銃の種類や形、部品や性能などに目がいくようになるということか。」

「なんか物騒なこと言ってるけど、まぁ、つまりそういうこと」

 まずい。会話の選択肢を間違えたか。若干引いてる。

「たとえば、どんなHeroがいるんだ?」

 ここは百聞は一見に如かずというように彼の仕事部屋に案内された。

 彼の仕事部屋には足跡を殺して、暗殺のために入ることがほとんどだったため感覚をコントロールせずに入ったのはほぼ初めてだった。入った瞬間、墨や紙の柔らかいニオイがした。

 棚には大量の本と、人形がたくさん並んでいる。

「それぞれが、シリーズ物でね。集団で戦う戦隊とか、人類のためにそれぞれの目的のために戦う人たちや宇宙人なんかもいる。」

「この虫みたいなのは?」

「これはバッタがモチーフのヒーローで、改造人間なんだ。バイクに乗って風の力で変身して、必殺技のキックで相手を倒す。」

「このカラフルなのは?」

「これは恐竜がモチーフの戦隊。電池みたいなアイテムと銃で変身するんだ。」

「色が違うだけで、形は一緒じゃないか」

「実は全然違うんだな。」

 ふと、ミスター柊の顔を見ると目が輝いていた。まるでおもちゃ屋に来た少年のような顔で意気揚々と話していた。

 なんだか恥ずかしくなって棚の方に視線を向けると同じ造形で同じポーズの人形があった。

「おい、なんでこのバッタのヒーローの人形が2つもあるんだ?どれも一緒だろ。1つで十分だ。」

「いやいや、これは実は違いがあって…」

 それからいろいろ話始めたが、完全にお宅モードだな。行ってることの4割しか理解できん。だが、なんだか楽しそうだ。

「えーと、ごめん。」

 彼は何かやらかしたか?!みたいな顔をしてこちらを見ていた。それがなんだかおかしかった。

「っふふ」

「え、なんで笑ったの?」(かわいい)

「いや、なんだ。今まで見たことないぐらい目が輝いていたからな。いいものが見れた。」

 なぜかミスター柊はゆっくり手で目を覆った。

「保養になる~」

「人形を見ただけでか?」


「しかし、人形を見るだけではいまいち分からんな。たしかドラマと言っていたな。見せてみろ。」

「え、一緒に見る?!」

「そ、そういっている。」

「あーでも、1作品50話ぐらいあるよ。」

「ちょっとずつでいい。 一気に見てしまうと、ミスターのその顔が見れなくなるからな。」

 それは名残惜しいからな。

「何か言った?」

「いや?」

「おすすめのはなんだ?」

 早速リビングに行ってDVD置き場からくだんのドラマのDVDを探す。

「そうだな~ヴェルカさんがどういうのが好きかわからないけど、初めて見るならいいのが…」

「このトカゲみたいな顔した奴はどうだ?なんだか、バイオレンスな設定みたいだな。」

「絶対ダメ!!!」

 なんだか見た目や写真がカッコよさそうでいいと思ったのだが、今まで聞いたことない大声で叫ばれた。そんな声出せたんだな… なんか知らんがすごく焦っているように見える。

「そ、そうか」

「そ、それよりこっちの方がおすすめ。探偵ものだから、楽しめると思う。」

「ミスターが選んだものでいい。そうやら、こういうのは詳しい人に任せるのが一番いいようだ。何かつまめるものでも用意しよう。」

「僕が作るよ。ポップコーンでいいかな?」

そうして2人でヒーローものを見た。

 しかし知らないジャンルを見るのは良いな。確かにこれはドラマだな。話も面白い。しかし、何よりも良かったのがアクション!なんだあの動きは!デタラメすぎる。今までの戦いでは見たことないような戦いをしている。これは体術に生かせるかもしれない。

 後日、庭で動きやすい服装になって、くだんの動きをしてみた。武器の動かし方や体術は色々使えそうだ。まさかこんな収穫が得られるとは思ってもみなかったな。

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