第1,5話 僕と妻の関係 妻視点
私はヴェルカ ロシア人の暗殺者だ。
ロシアの暗殺者ではなく、日本に拠点のある暗殺組織の一人だ。
自分のやっていることは理解しているし、自分の暗殺技術の高さも理解している。
なんだかんだあって私は、とあるターゲットと結婚している。
夫のミスター柊はいつでも殺していいというが、いざ殺そうとするとなぜか手が動かなくなる時がある。
とある夏の日 お昼時で暑さもピークだ。ミスター柊も今日は大事な仕事らしく1日中部屋に引きこもって作業すると言っていた。だから今日は私がご飯を作ることになった。
仕事中は特に無防備だが、そんなミスターを殺すのは面白くない。だから、あえて今日を乗り切れるよう腹いっぱいおいしいものを食わしてやろう。
あいにく私は、ロシア料理は得意だが、そのほかは苦手だ。いつもはミスター柊が家事をしている為、私が料理をすることはめったにない。だが、そうもいかない。私は1つの決心をして作業に取り掛かる。
だめだった。
たまにはチャーハンでも作って驚かせてやろうと思ったが、黒焦げになってしまった。自分でもよくこんなものが作れるなと感心してしまう。
仕方ない。これは私が食べよう。ミスター柊に出すのは申し訳ない。
私は彼の仕事部屋に重い足を引きずるように向かう。自分でも相当ショックを受けているようだ。
彼の部屋は本とオモチャがきれいに飾られている。木製の家具で揃えられており、温かみを感じる部屋だ。窓を開けていたのか部屋は涼しかった。
ふと窓のほうに顔を向けると、綺麗に手入れされた花壇の花たちがキラキラと輝いている。
そんな気分のいい日には、なぜだか無性に殺したくなる。
私は癖で握ってしまっていた包丁を背中に押し当てた。
「ヴェルカさん?お昼ご飯の準備はできたのかい?」
察しのいい夫は振り向かずにこちらにしゃべりかける。
「いや」
「では、なぜ僕の背中に鋭利なものを押し当てているんだい?それは人を刺すための道具じゃなくて、料理を作って愛を刺すためのものだよ。」
ちょっとナニ言ってるかわからない
「だからお前を刺そうとしている」
「それは物騒な話だ。」
「だが、私も腹が減った。今回は見逃してやる。だが忘れるな、お前はいつ私に殺されてもおかしくないということを」
今日も手は動かなかったな。近頃の私はどうかしている。
包丁を夫の背から放し、そそくさと部屋を後にする。
料理が盛られた皿を出していると、夫が部屋から現れた。
「ヴェルカさん。このダークマターはなんだい?」
見つかってしまったか。
「見てわからんか。チャーハンだ。」
私でもこれはチャーハンだと答えるかどうか迷ったが、ここでウソをつく理由はない。だが、いつまでも失敗作を見ないでほしい。
私は何かこれ以上言われる前にチャーハンの前に座る。
ふと夫のほうを見ると唖然としていた。
「何をしている、ミスター柊。席に座れ」
「それはこちらのセリフだ。なぜ君がそのち」
〈ち〉なんだ?これ以上私を侮辱する気か?
「・・・チャーハンの前に座っているのだい?」
「これは私が食べるものだ。旦那にはお得意の母国の料理を食べてほしい。失敗作は私が責任をもって食べるとしよう。」
「それはいただけないな。」
彼は自分の前に置かれた料理とチャーハンを入れ替える。
そんなもの食べさせるわけにはいかない
「なにをしている」
焦り気味に問いかける。
「おおかた、得意料理以外に挑戦したのだろう?君は頑張り屋さんだからな。でも、失敗してしまった。だけどこれはそんな努力の賜物だ。失敗は成功の基。責任をもって食べようとしたのも、挑戦したのもすべて 僕のためだろう?」
顔が赤くなるのを感じる。
(私のことをそんなに理解してくれてるなんて!暗殺者としては失格だが、妻としてこれはいいんじゃないか。胸が苦しい!)
いやいや、私は何を考えているのだ。
一時の興奮をすぐさま抑える。平常心こそ暗殺者の得意技術だ。
「夫とは妻の頑張りを支える者だ。これは僕がいただこう。」
「べ、別に、み、ミスター、ミスターのためじゃない!」
声が裏返ってしまった。
クソッ!心臓の音がうるさい。この気持ちはなんなんだ。
胸が苦しくて、暴れたくなる。
「さぁ、じゃあいただこう。いただきます。」
「あ、待て!」
とっさに静止をかけたが、時は遅かった。ミスター柊はすでにおぞましいそれを口に入れ終えていた。
「うん。おいしいよ。」
笑っているが、顔色が悪い。
途中でボルシチを一つだけ食べていたが、チャーハン自体は食べ終えていた。
何が彼をそこまで動かすのだ?
好きになってしまうではないか。
その後、ミスターは部屋に戻って仕事をしたが、私はどうしてもミスターの体調のことが気になって。何度も、彼の部屋をのぞきに行ってしまった。
今度はちゃんと練習して褒めてもらわなくては。いやいや、妻としての責務をこなさねば
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