僕は妻の暗殺対象

兎速 香声

第1話 僕と妻の関係

日が昇り始めてぽかぽかとしてき始めた昼頃。時計の針は12時を指している。

腹がすき始めるころで、その空腹を紛らわすかのようにコーヒーに口をつける。

ふと窓のほうに顔を向けると、綺麗に手入れされた花壇の花たちがキラキラと輝いている。

そんな気分もよい日の僕の後ろには

包丁を僕の背中に押し当てた妻が立っている。

そう、僕は妻の暗殺対象だ。


 僕の名前は柊 斗真(ひいらぎ とうま)

 髪は黒色 目も黒色 特撮ヒーローをこよなく愛する25歳の小説家だ。

 特に太っているわけでも、痩せているわけでもなし。イケメンでもないと思っている。

 そんな僕は一応結婚している。ある条件を飲んだうえで・・・


「ヴェルカさん?お昼ご飯の準備はできたのかい?」

「いや」

「では、なぜ僕の背中に鋭利なものを押し当てているんだい?それは人を刺すための道具じゃなくて、料理を作って愛を刺すためのものだよ。」

「だからお前を刺そうとしている」

「それは物騒な話だ。」

「だが、私も腹が減った。今回は見逃してやる。だが忘れるな、お前はいつ私に殺されてもおかしくないということを」

 そう冷たく吐き捨てた後、ナイフを僕の背中から放し、キッチンへと向かう。

 彼女はヴェルカ ロシアの暗殺者だ。

 髪は白色で瞳も白色 足はスラっと伸びており、体も健康体を体現したようなプロモーション どんな男性でもその姿には足を止めてしまう。

 そんな美人さんの今の暗殺対象は僕 彼女は僕を殺すために僕と結婚した。

 僕はいつでも殺しに来てもいいということを条件に結婚している。

 彼女は僕を殺すため、僕は彼女愛するため結婚している。傍から見れば奇妙な関係だが、私は彼女をそばに置いておけるならWin-Winだと思っている。

「ミスター!!!」

 怒号が聞こえる。 そろそろリビングに行かないと料理に毒を盛られそうだ。

 椅子から立ち上がり、軽やかな足取りで仕事部屋を後にする。

 先ほどは後ろを向いていたため気が付かなかったが、彼女は半袖短パンの動きやすい服装にエプロンを着ていた。彼女はどんなものを着ていても似合うと心底感心してしまった。

 机の上にはロシア料理が並んでいた。しかし、一皿だけ、真っ黒に焦げた塵の塊があった。

 なんだあれ?ダークマターか?

「ヴェルカさん。このダークマターはなんだい?」

「見てわからんか。チャーハンだ。」

 今、なんていった?チャーハン?これが?

 塵と言われたほうがまだうなずける。だが、これがチャーハンだと?

 なるほど、大体わかった。これが私のお昼ご飯だということか。精神的に

 殺そうとしているのだな。精神が追いやられて疲れ切ったところをナイフでということか。それなら納得だ。

 しかし、そう考えている間にヴェルカは席に着いた。塵が置かれている席に

「何をしている、ミスター柊。席に座れ」

「それはこちらのセリフだ。なぜ君がそのち」

 ギラリと妻の目が僕を射抜く。塵といっていたらもう死んでいた。危ない危ない。

「・・・チャーハンの前に座っているのだい?」

「これは私が食べるものだ。旦那にはお得意の母国の料理を食べてほしい。失敗作は私が責任をもって食べるとしよう。」

 呆気に取られてしまった。まるで夫婦の会話のようだ。夫に得意料理を食べてほしいなどと。彼女は暗殺者。きっと結婚したからにはきちんと妻を演じたいのだろう。しかし

「それはいただけないな。」

 私はそっと自分の前に出された料理とチャーハンを交換した。

 妻はびっくりしている。なぜこんなことをするのか理解できない顔だ。

 普段あまり感情が出てこない分、こういう顔を見れると癒される。ギャップ萌えというやつかな?

「なにをしている」

 少し焦り気味に問いかける。

「おおかた、得意料理以外に挑戦したのだろう?君は頑張り屋さんだからな。でも、失敗してしまった。だけどこれはそんな努力の賜物だ。失敗は成功の基。責任をもって食べようとしたのも、挑戦したのもすべて 僕のためだろう?」

 妻の顔が赤くなる。

「夫とは妻の頑張りを支える者だ。これは僕がいただこう。」

 妻の顔はどんどん赤くなって、顔を隠し始めて、なんだかもぞもぞしている。暗殺者だから思っていたことをドンピシャで当てられた自分に呆れているのだろうか。一人反省会かな?

「べ、別に、み、ミスター、ミスターのためじゃない!」

 少し怒りをはらんだ声だが、それすらも今の僕には癒しだ。

「さぁ、じゃあいただこう。いただきます。」

「あ、待て!」

 味はどうだったかって?聞かなくても分かるだろう?

 彼女は、ロシア料理は得意だが、それ以外の料理は壊滅的だ。

 ほんとに塵の味だったよ。もっと具体的に言うとパンの表面の焦げたところを集めて固めたような味だ。

「うん。おいしいよ。」

 しかし、妻が作ったという付加価値がついているのだ。おいしくないわけがない。ウソもまた方便だ。

 しかし、これだけではさすがに身が持たなかったため、ボルシチを1つだけもらった。

 その後の仕事は口の中にコゲの匂いを感じながら仕事をした。

 ドアの方からちらちらと視線を感じる。やはり、チャーハンを私が食べるのも計算の内だったか。

 その日の仕事は、強烈な焦げのニオイと、いつ襲ってくるか気を張りながらやったため、全く進まなかった。

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