7/29 哀愁とカーテン








 彼女の部屋で哀愁を感じるのは、たぶんカーテンの色が悪いと思う。

 青色が好きだというが、それにしても色が暗い。

 まるで海の底を連想させる。

 その他にも、飾られた絵画はあまり愉快な構図ではないし、ベッドやクッションの色も暗い。

 悲しみに浸かったような部屋だと思ったけど、もちろんそんなことは口にしない。

 彼女自身もどことなく暗めの雰囲気だけど、それは彼女の家庭環境に起因している。

 それに彼女は、明るくて楽しいことがあるよりも、静かに穏やかに日々を過ごしたいと思っている。

 だから僕と一緒にいてくれるのだ。

 僕はあまりしゃべらないし、彼女と同じで静かな方だから。

「こんど、海に行ってみない?」

 僕が提案すると、彼女が不思議そうに首をかしげる。

「海?」

「地元の人しか知らない、いいスポットがあるんだ。絶景だけど、まあ、ちょっと訳アリの場所」

「……うん」

 言葉を濁した僕に、彼女はすぐに察したようだ。

 事故があったり、不幸がある、そんな不吉な場所は、ふつうは嫌がるものだけど、彼女はそういう場所が好きだ。

 陰気な場所の方が落ち着くらしい。

「ありがとう」

 礼を言う彼女は、わずかに唇に笑みをたたえる。

 表情も乏しいけど、そこが可愛い。

 僕は彼女を、植物のようだと思う。

 静かに佇んで、ただそこにあるだけの存在。

 だけど彼女は人間だから、僕に好意を表してくれる。

 この上なく、幸せなことだ。

 僕は満足して彼女に微笑む。

 そうして僕たちの時間は、静かに、静かに過ぎていく。





(終)



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