7/20 片翼とサーカス

(BLです)




子供の頃に行ったサーカスで、不思議なものをたくさん見た。

まるで魔法みたいに、人の姿がとつぜん消えたり、鳥が現れたり、高いところにあるロープを歩く人だったり。

いちばん印象に残ったのは、片翼の鳥だ。

翼が一つしかないのに、あっという間にもう一つ翼が生えて、天井に向かって飛んで行った。

それが、素晴らしい自由に見えた。





僕の背中には、片方だけ翼がある。

僕の目にしか見えない、謎の翼。

両親も、妹も、友達も、先生も、誰にも見えないけど、僕にはたしかに半分だけ翼があった。

だから、あの日に見たサーカスのことを、いつまでも覚えているのだろう。

僕も、あと半分の翼が欲しい。

ずっとそう思っていた。

そして、高校に入った僕は、運命と出会う。

同じクラスメイトの彼は、背中に半分翼があった。

誰の目にも見えてないようだったけど、僕には見えた。

彼と一つになれば、自由に飛びたてるような気がする。

だから何としても、彼と一緒にいなければと思った。

「僕のものになって」

「またそれかよ。何回口説いてくるんだ」

彼がうんざりした顔で僕を見る。

だけど、追い出したりはしない。

「オレはそういう趣味はねぇの」

「でも、僕だけが、貴方の翼になれるのに」

「決まったわけじゃねーだろ。世の中には数えきれないほど人がいるんだ」

彼は諦め悪く、そう言って受け入れてくれない。

だけど本当は分かってるはずだ。

彼の目にも僕の翼が見えるのだから。

「貴方が僕のものになってくれるまで、待つから」

「待つな。お前も女さがせよ」

「僕は貴方がいいんだ」

「はあ……」

彼のため息はわざとらしい。

だけど僕はニコニコしながら彼と、彼の翼を見た。

彼の翼は、形も色も、僕の翼とそっくりだ。

僕が近づくと、輝くように光って、羽ばたくような仕草を見せる。

彼の側にいると、僕の翼も同じように輝いて、羽ばたく仕草をする。

「貴方が好き」

僕の気持ちが、きっと翼に伝わっているのだ。

きっと彼の翼も同じ。

だから僕は、いつまでも、彼を待つ。





(終)





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る