7/19 夜更けとモナリザ







 夜更けにその階段を上がると、途中に飾られているモナ・リザの絵が動き出すらしい。

 学校の七不思議の一つだが、迷信だと思っている。

 確かめたいと思ったことも無いのに、なぜいま学校に忍び込んでここに居るのか……。

「ねえ、ホントだと思う?」

 話しかけてきたのは、俺がここにいることになった原因の彼女。

 今年、うちに転校してきた、オカルト好きのクラスメイトだ。

 美人な彼女は、クラスにすぐに馴染んで、友人も多い。

 この学校の七不思議を聞いた彼女は「見たい!」と目を輝かせた。

 そんな彼女に乗って、肝試しをすることになったのだが、なぜか俺まで数に入れられていた。

 男女でペアを組んで、モナ・リザをみて帰ってくるルートで、くじ引きで俺が彼女とペアになった。

 男どもには恨みのこもった視線を送られたが、俺にとっては迷惑でしかない。

 早く終わらせて帰ろうと決心した。

「迷信だろ」

「そうかな~けっこう古いんでしょ? その話」

「まあ、親も知ってたくらいだしな」

 同じ高校出身の親父も、当時から七不思議はあったと言っていた。

 下らない迷信がいつまでも残っていることに腹が立つ。

「どーせ何もないだろ」

 早く帰ってゲームしたい。

 俺の願いはそれだけだ。

「でも、こうやって二人で歩いてるとドキドキするね」

「そうか?」

「怖くない?」

「まったく」

「じゃあ、手、にぎってよ」

「は?」

 思わず振り向くと、彼女は緊張した顔で俺を見ていた。

「ちょっと、怖いし」

「え? 見たかったんじゃねぇの?」

 オカルトな話になると、いつもキラキラした顔で語っていたのに。

「だって、真っ暗だし」

「これの明かりで十分だろ」

 スマホのライトだけを頼りに歩いてきた。

 十分な明るさがあると思ったが、彼女は黙って俺の手を握る。

「ちょっとだけ、いいでしょ?」

 上目遣いに見あげてくる彼女の顔は、少し青ざめている。

 指先が震えているのに気づいて、その手を振りほどくことができなかった。

「少しだけな」

「うん」

 誰かに見つかるとまずいから、戻る直前には手を離すことを決めてから、階段を上る。

 そういえば、親父が話していたことを、思い出した。

『肝試しは母さんとペアだったんだ。これがきっかけで、付き合うようになったんだぜ』

 自慢げに惚気る親父に、そんな漫画みたいなことあるかと思っていたのだが。

 そう言うこともあるのかもしれない。

 彼女の小さな手を握りしめて、俺は少しドキドキしていた。



(終)



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