7/17 至福と聖像

 お題SS 7/17 至福と聖像

(BLです)






 両親共に熱心なクリスチャンで、家にはイエスキリストやマリア様の聖像がいたるところに飾られている。

 小さい頃からお祈りもミサも日常で、僕はこのまま両親と同じ道をたどると思っていた。

 15の夏、最愛のあの人に会うまでは。





 僕の高校時代は、あの人のことでいっぱいになる自分を隠す為に必死だった。

 もし両親に見つかったら、どんな目に合うか分からない。

 敬虔なクリスチャンの振りをするのは嫌だったけど、我慢するしかなかった。

 三年間、おとなしく親の言うことを聞いて、大学に入る時に一人暮らしの許可を得た。

 家から離れて、ようやく僕は自由になった。

 あの人のことだけに夢中になれる自分に。

「おまえんち、相変わらずすげーな」

 部屋に遊びに来た友人が、あきれ顔で言う。

 中学時代からの幼なじみだ。

 僕が良い子ちゃんだった頃も、あの人に出会って人生を決めたことも。

 ひたすら隠し通して、大学で自由を得たことも、すべて知っている友人だ。

「やっと心置きなく愛でられるんだよ!? ずっとこうしたかったんだ!」

 僕の部屋は、あるアニメのキャラクターグッズで埋め尽くされている。

 ポスターはもちろん、フィギュア、ぬいぐるみ。

 原作の漫画も、舞台のパンフレットも。

 どこを見渡しても、あの人がいる。

 僕の愛するアニメの主人公。

「見てみて、このポスターかっこいいだろ! これはアニメ一期の時のやつ! 今はあんまり出回ってないんだ」

「へえ」

「もーすっごくカッコイイ!! 抱いてほしい!」

「なんでヒロインじゃなくて主人公にハマるんだよ」

 友人がますます呆れた顔になる。

「まあ昔から女に興味なかったもんな……」

 友人が言うように、僕はそっちの人間なのだろう。

 だけど僕が愛するのは、ポスターの中から微笑みかけてくれる、あの人だけ。

 大好きなあの人に囲まれて、僕は初めて至福というものを知った。

「親にバレないように気をつけろよ」

「分かってるよ」

 良い子ちゃんだった僕が、アニメの男キャラにハマっているなんて知ったら、両親は卒倒するだろう。

 オタクという存在にすら寛容を示さない、古い考えの人達だから。

 なるべく距離を置いておくつもりだ。

「何があっても、離れないよ」

 ポスターのあの人に向かって、声をかける。

 あの人が『オレもだ』と答えてくれた気がして、僕はあの人に頬ずりをした。




(終)

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