7/16 足元とブランコ







彼女の足元を見て、思わず声をかけた。

「おねーさん、それでブランコ乗るの止めた方がいいよ」

「はあ?」

振り向いた彼女が、不機嫌な顔で睨みつける。

初対面の彼女だが、止めるのには訳があった。

彼女は、今からデートにでも行くような、ひざ丈のワンピースでお洒落な恰好をしている。

その姿でさびれた公園のブランコに腰かけているシチュエーションも異様だが、何より、7センチはありそうなピンヒールの靴を履いていた。

「そんな靴でブランコに乗ったら、ヒールが折れるよ」

親切心で声をかけたが、彼女はギロっと睨みつけるだけだ。

せっかく可愛い恰好をしているのに、その顔は恨みと憎しみで歪んでいる。

「なんかあったの?」

「アンタには関係ないでしょ!」

怒鳴り返され、肩をすくめる。

赤の他人に声をかけるなんて、俺らしくもない。

だが、何となく事情が見えるので気になったのだ。

「彼氏にでも振られた?」

「うるさいわね!」

「おねーさん、可愛いのに。彼氏ももったいないことするね」

「放っといてよ!」

図星だったのか、顔を真っ赤にした彼女が吠える。

だけど、ブランコから立ち上がる気配はない。

下を向いて黙り込んだ。

俺もブランコに腰かけたまま、しばらく待つ。

「……プロポーズされると思ってたのに」

ぼそっと呟く彼女は、顔をあげないまま続ける。

「他に好きな人ができたって……なんなのソレ! こっちは三年も付き合ってたのに、別れてくれって!」

馬鹿にして!と怒る彼女に、俺は何も言わない。

ただ、本当に相手の男はもったいないことしたよなと思う。

俺の目から見ても、彼女は可愛い。

笑ったら素敵だろうなと思う。

「まあ、男はいっぱいいるんだし、そいつより良い男捕まえればいいじゃん」

「生意気いうのね」

彼女が顔をあげる。

泣いてるかと思ったけど、まったくそんなことなかった。

見た目は可愛くて大人しそうな印象だけど、気が強いタイプらしい。

いいな、と思ったけど、口には出さない。

「おねーさん、幸せになれるって」

「ふん。適当なこと言って」

鼻で笑う彼女に、俺も笑った。

ブランコから降りて、彼女をふり返る。

「じゃーね。おねーさん」

「バイバイ。少年」

追い払うように手を振る彼女。

怒りがすっかりおさまってることに安心して、二度と会うことも無い彼女と別れた。





(終)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る