7/14 桜と偏食








 甘いものが好きな彼女は、いつもお菓子を持ち歩いている。

 桜が満開だった日曜日。

 彼女に誘われて公園でデートをした。

 公園に一つだけある大きな桜の木は、もう満開だ。

 小さな子供たちが舞い散る花びらを追いかける。

 子供たちの母親が、公園のベンチに座ってその様子を眺めていた。

 僕と彼女も、空いたベンチに腰掛ける。

「桜、きれいだな」

「うんうん」

 僕の言葉に彼女は頷くが、桜よりも手に持った桜餅に夢中だ。

 モグモグと美味しそうに食べている。

「あ、たべる?」

 彼女が差し出したプラスチックのトレイには、桜餅が二個と、まんじゅうが二個。

「ありがと」

 礼を言って桜餅を一つもらう。

 ふだんは甘いものは食べないけど、彼女が勧めてくるものは食べる。

 そうすると、彼女が嬉しそうに笑うから。

「おいしいでしょ?」

「うん。おいしいよ」

 あんこも、塩味の葉っぱも、味が絶妙でうまい。

 僕は一つ食べて満足して、ペットボトルのお茶を飲む。

 だけど彼女は、もう一つの桜餅と、まんじゅうまで、ぜんぶ食べた。

「食べすぎじゃない?」

「朝食べないから、いいの」

「前から思ってたけど、その偏食止めた方がいいよ」

 ご飯を抜いても、甘い物はしっかり食べる彼女。

「え~でもおいしいものは止められないもん」

 ニコニコしながらそう言う彼女は、言葉通り止める気はないのだろう。

 彼女が幸せなら、それでいい。

 そう思うものの、彼女の健康が心配な僕は、どうするべきか頭を悩ませるのだった。





(終)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る