7/11 涙と鳥籠






 空っぽの鳥かごをみて、五才の弟が目に涙をためる。

 しまった、と思った時には遅かった。

「っ……うわぁぁぁんっ!」

 ボロボロと涙を流しながら、しゃくりあげる。

 彼はため息をこらえて、弟の頭をなでた。

「泣くなって。探してやるから」

「っ、でも、ピーちゃん、いない~」

 鳥かごを両手に持って、ワンワンと泣き出す。

「どっかその辺にいるって」

 彼はきょろきょろと辺りを見渡すが、公園に植えられた木々は緑で生い茂り、あちこちで鳥が鳴いている。

 弟の小鳥がどこへ行ったのか、彼には見当もつかない。

 鳥かごの出入り口をしっかり閉めなかったのは弟だが、それを指摘したところで盛大に泣くのがオチだ。

「そこに座って待ってろ」

 彼は弟をベンチに座らせると、とりあえず小鳥を探しに出た。

 木の根元から上を見上げて「ピースケ」と呼びかけるが、返事はない。

 違う鳥がピピッと鳴く声を聞いて、ここにはいないなと判断し、次の木に移る。

 そうして探していっても、小鳥は見つからなかった。

 鳥かごから自由になったのを幸いに、大空へはばたいたのかもしれない。

 彼としては、小鳥が逃げたところで、仕方ないと諦めるが、彼の弟はそういかない。

 ベンチに戻ると、泣きべそをかいた弟がかけよってきた。

「ピーちゃんは?」

「あー、遠くに行ったみたいだな。おうちに帰ったんじゃねぇ?」

「おうち、ここだもん!」

 弟が空の鳥かごを見せてくる。

「ピーちゃんのいえ、ここ!」

「でもピースケは、ここで生まれたわけじゃないだろ?」

「?」

 彼はなだめるように、言い聞かせる。

「ピースケは木の上で生まれて、たまたまお前んとこに来ただけだ。家が恋しくなっても仕方ないさ」

「やだー! ピーちゃん、ピーちゃん~!」

 再び泣き出した弟に、彼は今度こそため息をつく。

 だいたい、なんでちゃんと入口を閉めていなかったのか。

 そう言いたいのをぐっとこらえて、弟から鳥かごを奪う。

「あっ! ピーちゃんの!」

「帰るぞ。もしかしたら、お前の部屋に戻ってるかもしんないだろ?」

「ほんとに? ピーちゃん、ぼくのへやにいる?」

 パッと顔をあげた弟が、期待に満ちた目で見上げてくる。

 彼は適当にごまかして、家に帰ることにした。

 家で母がなぐさめてくれるだろう。

 マジで面倒くせぇ。

 いつもそう思うが、

「にーちゃん、はやくかえろ!」

 小鳥が家にいると無邪気に信じる弟が、可愛いとも思う。

 どうせ後でまた大泣きするのは分かっているが、彼は笑顔で、弟の頭をなでた。



(終)


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