③ 憧れ
僕は、末っ子だ。
家では、一人っ子だけど、この同じ船のメンバーの中では、末っ子なのだ。
メンバーは全員で7人。初めて会ったときは、年齢も性格もいろいろで、うまくやってけるのか、ちょっぴり不安がなかったと言えばウソになる。
でも、年上組の3人が優しくて、年下組の僕らのことを、いつも気遣って声をかけてくれるので、僕ら年下組は、のびのび過ごすことが出来ている。真ん中組の2人も気がいいので、僕は、毎日機嫌良く過ごしている。
「地球なんか、行くのはやめなさい。ろくなことがないって、言うわよ」
出発する前、母さんは言った。
「でも、行ってみたい」
「帰って来れなかったらどうするの? お母さんに泣き暮らせというの?」
母さんは、心配症だ。そして、その心配は杞憂だとは、断言できないところが、僕のつらいところだ。
僕たちの暮らす星と近い環境にある星、地球。
生物の進化や、文明の発展具合もすごく近い。
だから、他の星に行くより、ストレスは少ないと言われる。でも、それゆえに、ここでの暮らしになじみすぎて、帰れなくなる人も多い。母さんは、それを心配している。当然だ。
でも、僕は、この星でしてみたいことがあった。
笑われるかもしれない。
それでも、憧れてきた。
これは、今まで、同じ船のメンバーにも、もちろん、友達の誰にも話してはいない。
それは、ある人が、地球から持ち帰ったファッション雑誌を見たことが始まりだった。
きれいで華やかな色遣いのもの、逆にシックでおさえた色目なのに、めちゃくちゃ印象的なデザインのもの。どのページにも、素敵な服を身につけた人たちがカッコいいポーズを決めている。
これだ!
僕は思った。
僕が、着たいのは、これだ! そう思った。
僕らの星は、おそらく、地球よりほんの少し進んでいる?部分がある。星間移動が可能な調査船があることもそうだけど、それ以外にも、ひとりひとりに備わった能力に、地球人との違いがある。
僕らの星では、全員に備わっているのが、心を読む力だ。もちろん、この力のレベルには、個人差がある。例えば、7人の中でも、ヒロくんなんかは、一番レベルが高くて、すぐそばにいなくても、その人に意識を向ければ、少々離れたところからでも、心が読める。僕を含め、他のメンバーは、どっこいどっこいで、目を見たりそばに座っていたりすると読める、平均的なレベルだ。
みんな、生まれたときからそうなので、相手の心を読むか読まないかは、自在にコントロールできるし、読まれたくないときに、さりげなくロックをかけることもできる。
ただ、このメンバーでは、そんなにロックをかけるほどの気持ちになったことはないけど。
このほかに、僕らにとって、一番大きくて必須の力がある。
それは、瞬間場所移動能力だ。
日常生活のベースが置かれている場所(この星では、調査船のある場所、つまり今住んでいる下宿屋だ)を起点にして、水平方向に半径4000km程度の範囲なら、移動可能なのだ。もちろん、これにも、若干の個人差がある。たぶん、一番長距離移動が可能なのは……たぶん、これもヒロくんだ。
ヒロくんは、そのほかの能力は平均的だ、と本人は言うけど、どの能力についても、かなりハイレベルなのだ。
これら2つの能力以外に、個人個人に違う能力が備わっている。それは、もうひとりひとり、いろんな能力がある。
例えば、トモくんは、その気になれば、地面から50cmくらい上のところを歩くことが出来るし、テツくんは、すごく持久力があって、かなり長い時間息を止めたりできる。(実際タイムを計ったことはないけど)
ナオトは、数分間なら、目で人の動きを止めることが出来る。
タクトは、枯れ枝にさえも、花を咲かすことが出来る。
いつだったか、日本昔話の『花咲か爺』みたいだね、といったら、『爺ちゃうし!』とめっちゃ怒られたけど。
サキトは、ほほ笑みかけた相手の心を、すっとほどいて、警戒心をなくさせる力がある。
そして、僕は。
まだ、僕には、僕だけの力が、何かよくわからない。
ただ、僕に言えるのは、この星で、ファッションの勉強をしたいってことだ。
僕らの故郷の星では、みんなが個体識別・追跡装置を内蔵した服を身につけることになっている。全員瞬間場所移動能力があるから、万一犯罪が起きた場合でも、追跡できるように。そして、服は、装置の性能だけが追求され、ファッション性はまったくといってないのだ。年代によって、身につける基本色も決まっているし、それこそ、デザインは、全員同じだ。
ついでに言うと、各自の名前すら、年代によって、末尾に使う文字が決められている。
地球に来て、とくに、日本で暮らし始めて、驚いたのは、めちゃくちゃ名前のバリエーションが豊富なことだ。
昔は、女性は、末尾に“子”の文字がつくのが一般的だったらしいけど。少なくとも、今僕の知っている地球人で、名前に“子”がつく人は、下宿屋の世話人、風子さんと、あとほんの数人だ。
僕、ユウトの願いは、故郷の星で、どこでも自由に、自分が着たい服を着て過ごせるようにしたいってこと。
そして、そのために、地球の服飾文化の進化と発展をしっかり調べて、それを自分たちの星での生活に生かせたら、ということなのだ。
今、僕は、編入先の高校で、そのための進路をどうするべきか、考えているところだ。
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