【ダンジョン回】執事、ドラゴン娘を抱いて寝る

「ふぅ……」


 あの後は大変だった。2人を落ち着かせ、説明をしっかりして、なんとか理解してもらえた。


「うん、素敵じゃないか、ルミナ」

「わぁ、ルミナちゃんかわいいですぅ!」

「うん、気に入った! ありがと、アリス、リコ!」


 ルミナはリコのお下がりの服を着せてもらっている。うん、見違えたな。


「ご主人様、どお?」

「うん、とっても似合ってるよ、ルミナ」

「えへへ、ありがと。ぎゅー!」

「!?」


 ルミナはいきなりボクに力強く抱きついてきた。ドラゴンだからだろうか? 体温がかなり高く感じる。


「うわぁ! いきなりリオに抱きつくとはうらやま……けしからん! は、離れたまえ……」

「そうですよ! 兄さんに抱きつくのは妹の特権です!」

「と、とりあえずルミナ、いったん離れて」

「がお?」


 ルミナはとりあえず、ボクから離れる。


「しかし、ドラゴンが人型に変身するとは思わなかったよ……」


 お嬢様はうーんと考え込んでいる。


「ドラゴンという生物にはまだ謎が多いですからね……。おいでルミナちゃん!」

「がお♪」

 

 リコはルミナを呼んで、なでなでしている。


「あっ、ずるいなぁリコ! 私もなでなでしたいぞ!」

「ふふっ、大人気だね、ルミナ」


 一時はどうなるかとおもったが、形は変わってもルミナはルミナみたいだ。みんな、変わらずに可愛がってくれている。

 

「──ところで重大な問題が発生した」


 アリスは深刻な顔で発言する。


「なんですか? お嬢様」


 ボクはアリスにたずねる。


「ルミナが今日からどこで寝るか──だ」

「あっ……」

「兄さんの部屋は確かに……アレですね」

「がお? ルミナはご主人様と一緒に寝るよ? ずっと一緒!」

「……」

「……」

「……」


 ど、どうしよう?

 




「じゃあ電気消すよ、ルミナ」

「がお♪」


 結局、ルミナはボクの部屋で寝ると言い張ったので、ドラゴン形態ならOKという話に落ち着いた。


 ルミナはドラゴンの姿でボクのベッドに潜り込んだいる。


「ふわぁ……」

「ふわぁ……がお」

「ふふっ、あくびが移った? おやすみ、ルミナ」

「おやすみ、ご主人様……」


 ボク達はそろって眠り始める。





「ん?」


 何か柔らかい感触に違和感を感じて、目を覚ます。


「うわっ!」

「えへへ、ご主人様ぁ……zzz」


 いつのまにかルミナが人型モードに戻っている。しかも、ボクを抱き枕みたいに抱き締めている。


「る、ルミナ、起きて! おーい!」

「もう食べられない……がお」


 声をかけても、体をゆすっても全く目が覚める様子はない。


「ど、ドラゴンの眠りってこんなに深いのか……」


 しかも強めに抱き締められているため、身動きもとれない。


 さっきからふにっという、ルミナの胸の辺りの柔らかい感触がずっと続いてる。


「えっ、もしかして、これ朝までこのままなの?」


 ボクはそのまま、朝までもんもんとしていた。





「ご主人様、おはよう!」


 ルミナはうーん、と伸びをしている。


「おはよう……ルミナ……」


 アレからボクは一睡もできなかった……。


「ご主人様、目の下のクマがすごいね! どうしたの?」

「こ、今度から、夜に人型モードにならないように練習しようね?」

「がお?」





 今日はルミナがパーティーに加入して、“初配信”の日だ。


「やぁやぁ、諸君。今日は我がパーティーに入った新人を紹介するよ!」


 アリスがスマホに向かってウィンクをする。


《うおー! 新人かぁ!》

《どんな子だろう?》

《かわいい子だといいなぁ……》

《楽しみ〜!》

《まさか──奴か?》


 コメントがざわついている。


「うん、じゃあこっちにおいでルミナ」


 アリスが人型のルミナを手招きする。


「今日からパーティーに入るルミナ! みんなよろしく! がお♪」


《か、かわいい〜!》

《がおっ娘!? たまんねぇ……》

《はぁ……ごっつかわええですわぁ……》

《やべぇ、めっちゃタイプかも!》

《これもうアイドルユニットだろ……》

《↑リオきゅんセンターな?》

《また推しメンが増えたぜ!》

《うおお、スパチャの準備だぁ!》


「なんとこの子は、前回のダンジョン配信の報酬の卵から生まれたドラゴン娘だよ。フフッ、みんな可愛がってあげてね?」


《ドラゴン娘エエエエ!?》

《そんな事ある!?》

《いや、ドラゴンは未だ謎多き生物。それがダンジョン踏破報酬の卵から生まれたとなるとなおさら……》

《モンスターテイマーが扱うドラゴンみたいなもんか》

《またとんでもねぇ奴が加入したぞwww》





 ダンジョンをしばらく進むとS級モンスターのギガントオーガが現れた。ダンジョンの天井に届くほどの巨漢だ。


「──『ビリオンズ・ナイフ』」


 ボクはポケットから数多あまたのナイフをギガントオーガに向かって投擲とうてきする。


 ──ドガガガガガガガガガ!


『グガアアアアアアアアアア!』


 ギガントオーガは跡形もなく、ミンチのように粉々になる。


《相変わらず凄すぎて草》

《ギガントオーガさん……》

《執事見てると俺でも倒せるんじゃないかと錯覚してしまう……》

《↑それでこの前モンスターにボコボコにされました……》

《分かるww》


 ──ドシン


 大地が振動する。


「アレは“レインボードラゴン”だ! みんな、気をつけたまえ!」

「「承知しました」」

「がお!」


《レインボードラゴン!?》

《七色に光ってやがる!》

《異常発生した変異種のドラゴンだ!》

《ただでさえS級のドラゴンの変異種……だと?》

《一帯をどれほどの強さ……》

《これはとんでもねぇぞ!》

《美しい……》


「ご主人様、ルミナに任せて!」


 ルミナが一歩踏み出す。


「ルミナ、やれるかい?」

「うん、目には目を。ドラゴンにはドラゴン!」

「そうだね、今日の主役はルミナだ。一発、ドカンとかましてきたまえ」

「ルミナちゃん、やっちゃって下さい!」


《え? ルミナちゃん単騎?》

《よせ! 自殺行為だ!》

《うわぁ、ルミナちゃんがドラゴンステーキになっちゃうよぉ! じゅるり》

《ああああああああああああ!》


『グオオオオオオオオオオ!』


 レインボードラゴンは大きく息を吸い、口から特大のブレスを放つ。


 レインボードラゴンのブレスの色は7色。火・水・氷・風・雷・光、闇の属性が混じった複合攻撃。


《うわあ! レインボーブレスだぁ!》

《もう終わりやね……》

《ほげええええええ!》


「がお!」


 そして呼応するようにルミナの口から放たれたのは“全く同じ7色”のブレス。


 同質のブレス同士が衝突する。


「頑張れ、ルミナ!」


 ボクは思わず声を上げる。


「君なら行けるさ、ルミナ」

「ルミナちゃん、行けー!」

「がお!」


 ルミナのブレスはレインボードラゴンのブレスを押し退け、ルミナのブレスが炸裂する。


『グオオオオオオオオオオ……』


 ──チュドーン!


 レインボードラゴンはその場で爆散した。


《やっ、やりやがったぞ! あのドラ娘!》

《すげえええええ!》

《ドラ子ちゃん、やったね!》

《excellent!》

《ヒヤヒヤしましたわね……》

《すげーもん見れたぞ!》

《また同接がとんでもねぇことになってるww》


「よかった……」


 ボクはもしもの時にと、構えていた黒刀の構えをとく。


「ふぅ……」

「ひやっとしましたぁ……」


 見ればアリスとリコも、いざという時は助けに入ろうと身構えていたようだ。


「ご主人様、やったよー!」

 

 ルミナがボクに抱きついてきた。


「うん、すごくかっこよかったよ!」


 ボクはルミナを目一杯なでる。


「がお♪」


《おい執事、そこ代わりなさい》

《裏山死刑》

《私のリオくんがああああああ!?》

《たまりませんわぁ!》



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