【ラブコメ回】執事、妹とデートする
「兄さん、日曜日の午後のシフト空いてますよね?」
リコが唐突に話しかけてきた。
「うん、空いてるよ」
「よかったら映画でも観に行きませんか?」
「そうだな……。ここの所忙しかったし、息抜きにいいかもしれないね」
「やった! じゃあ何の映画観に行きます?」
「んーとそうだね……」
ボクはスマホで上映中の映画を検索する。
「おっ、これなんかどうかな? 『真夏のラプソディ』。評判も結構いいみたいで、いまSNSで話題になってるよね」
「確か恋愛映画でしたよね? いいですね、兄さん。それにしましょう!」
「うん、じゃあスマホで予約取っておくね、リコ」
「はい、ありがとうございます、兄さん!」
リコはウキウキの様子だ。うん、たまにはこういうのもいいな。
♢
「それじゃあリコ、映画観に行こっか!」
「はい、兄さん!」
リコは普段の
「リコ、その服似合ってるね。うん、とっても可愛いと思うよ!」
「ふぇ!? そ、そうですか、ありがとうございます……兄さん」
リコの頬が一瞬で赤く染まる。ふふっ、相変わらず照れ屋だな。
「兄さんの服装もとってもお似合いですよ。サングラスがとっても新鮮です」
「そ、そうかな? それはよかったよ」
ボクが普通の私服で行こうとしたところ、「兄さんも、もう有名人なんですから、顔バレに気をつけた方がいいですよ」と言われたので、薄めのサングラスを掛けている。
「よし、それじゃあ出発だね!」
「はい!」
リコはボクの片腕に、自分の両腕を絡ませてきた。
「お、おいおい!」
「ふふっ、いいじゃないですか! デートですよ、デート!」
「ちょ、ちょっと気恥ずかしいけどね……。軽い変装もしてるし、まぁいいかな?」
「それじゃあ行きましょう、兄さん!」
ボクたちは仲良く映画館へと向かう。
♢
「うわぁ、映画館、結構混んでるね……」
チケット売り場には長蛇の列が並んでいる。
「はい。チケット予約をしていて正解でしたね、兄さん」
ボクたちはネット予約専用のチケット売り場で番号を入力し、チケットを手に入れる。
日曜日ということもあって、映画館には様々な年齢層のお客さんがいる。なにやら、こちらを見てヒソヒソと話をする人も──
《おっ、あの金髪の子、可愛いな》
《どっかのモデルか?》
《そう言えばどっかで見たような気もするんだけどな……》
《ちぇっ、彼氏持ちかよ……。声かけようと思ったのに……》
《腕絡ませてあって、仲良いなちくしょう……》
《うらやましいなぁ……》
どうやら兄妹ではなく、カップルだと思われているようだ。
♢
ボク達は劇場に入場し、指定された席に座る。真ん中後方の比較的見やすい位置となっている。
恋愛映画というだけあって、周りにはカップルのお客さんが多い印象だ。
映画の上映が始まった。
内容は様々な困難を乗り越えたカップルが、終盤にお互いが兄妹だという真実に絶望し、来世で恋人になろうと最後に2人で滝に身を投げるというもの。
終盤には、お客さんのすすり泣く音があちらこちらから聞こえてくる。
「うわあああん……」
「ひぐっひぐっ……」
「エフッ……エフッ……エフッ……」
かくいうボクも
「(ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お゛!)」
この有様である。横からもすすり泣きが聞こえたので、チラッと見てみるとリコも
「ぴえええええええええん!」
と泣きじゃくっている。兄妹だから泣きのツボも似ているのかもしれない。
♢
「すごくよかったですね、兄さん!」
「うん、感動したよ!」
映画館からの帰り道、2人で感想を言い合いながら帰宅する。
「最後に2人で滝に身を投げるところは涙なしでは語れませんでしたね……」
「そうだね。でも──」
「でも? なんです兄さん?」
「ボクだったら、あるかないか分からない来世に賭けるよりも、今ある妹との時間を大事にしたいなぁ。愛してるならなおさらね」
「ふぇ!?」
リコの顔がボシュと真っ赤になる。まるでゆでダコだ。
「どうしたの、リコ?」
「い、いえ、なんでも……。もし、兄さんなら最後どうしていました?」
「そうだね。もしボクだったら2人で駆け落ちしてでも生きて、妹を愛して守り抜く……かな」
「あわわわわわわわわわわわわわわ!」
「だって世界に1人しかいない、かけがえのない妹だからね。世界だって敵に回してみせるさ」
「きゃあああああああああああああ!」
リコが卒倒しそうになる。
「──おっと」
ボクは慌ててリコを支える。
「(────これはもう、妹の私に対する間接的な告白なのでは!?)」
※違います。
「リコ、大丈夫? 疲れちゃった?」
「ふぇ?」
ボクは妹をお姫様抱っこする。
「なななななななななななななな!?」
「待ってて、すぐにお屋敷まで運ぶから」
ボクは妹を抱えて、俊足で屋敷まで運んで行く。
「着いたよ、リコの部屋」
「は、早いですね……」
「ゆっくり休むんだよリコ。何かあったらすぐボクに言ってね」
「は、はい……ありがとうございます。あの、兄さん……」
「ん?」
リコは深呼吸をした。
「今日はとっても楽しかったです!」
それはキラキラした太陽みたいなリコの笑顔だった。あぁ、サングラスをしていてよかった。そうでなきゃ、眩しすぎて直視できないから。
「うん、ボクも楽しかったよ! また行こうね、リコ」
「はい!」
♢
《夜桜リコ視点》
「〜ってことがあったんですよ〜。そこで兄さんったら私をお姫様抱っこしてですね〜」
私はアリスに映画館がどうだったかを聞かれたので、事の
「(う、うらやましい! 私もお姫様抱っこされてみたいんだが!?)」
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