【ラブコメ回】執事、妹とデートする

「兄さん、日曜日の午後のシフト空いてますよね?」

 

 リコが唐突に話しかけてきた。


「うん、空いてるよ」

「よかったら映画でも観に行きませんか?」

「そうだな……。ここの所忙しかったし、息抜きにいいかもしれないね」

「やった! じゃあ何の映画観に行きます?」

「んーとそうだね……」


 ボクはスマホで上映中の映画を検索する。


「おっ、これなんかどうかな? 『真夏のラプソディ』。評判も結構いいみたいで、いまSNSで話題になってるよね」

「確か恋愛映画でしたよね? いいですね、兄さん。それにしましょう!」

「うん、じゃあスマホで予約取っておくね、リコ」

「はい、ありがとうございます、兄さん!」


 リコはウキウキの様子だ。うん、たまにはこういうのもいいな。





「それじゃあリコ、映画観に行こっか!」

「はい、兄さん!」


 リコは普段の侍女じじょの服装とは違い、私服を着て帽子を被り、おめかしをしている。


「リコ、その服似合ってるね。うん、とっても可愛いと思うよ!」

「ふぇ!? そ、そうですか、ありがとうございます……兄さん」


 リコの頬が一瞬で赤く染まる。ふふっ、相変わらず照れ屋だな。

 

「兄さんの服装もとってもお似合いですよ。サングラスがとっても新鮮です」

「そ、そうかな? それはよかったよ」


 ボクが普通の私服で行こうとしたところ、「兄さんも、もう有名人なんですから、顔バレに気をつけた方がいいですよ」と言われたので、薄めのサングラスを掛けている。


「よし、それじゃあ出発だね!」

「はい!」


 リコはボクの片腕に、自分の両腕を絡ませてきた。


「お、おいおい!」

「ふふっ、いいじゃないですか! デートですよ、デート!」

「ちょ、ちょっと気恥ずかしいけどね……。軽い変装もしてるし、まぁいいかな?」

「それじゃあ行きましょう、兄さん!」


 ボクたちは仲良く映画館へと向かう。





「うわぁ、映画館、結構混んでるね……」


 チケット売り場には長蛇の列が並んでいる。


「はい。チケット予約をしていて正解でしたね、兄さん」


 ボクたちはネット予約専用のチケット売り場で番号を入力し、チケットを手に入れる。


 日曜日ということもあって、映画館には様々な年齢層のお客さんがいる。なにやら、こちらを見てヒソヒソと話をする人も──


《おっ、あの金髪の子、可愛いな》

《どっかのモデルか?》

《そう言えばどっかで見たような気もするんだけどな……》

《ちぇっ、彼氏持ちかよ……。声かけようと思ったのに……》

《腕絡ませてあって、仲良いなちくしょう……》

《うらやましいなぁ……》


 どうやら兄妹ではなく、カップルだと思われているようだ。





 ボク達は劇場に入場し、指定された席に座る。真ん中後方の比較的見やすい位置となっている。


 恋愛映画というだけあって、周りにはカップルのお客さんが多い印象だ。


 映画の上映が始まった。


 内容は様々な困難を乗り越えたカップルが、終盤にお互いが兄妹だという真実に絶望し、来世で恋人になろうと最後に2人で滝に身を投げるというもの。


 終盤には、お客さんのすすり泣く音があちらこちらから聞こえてくる。


「うわあああん……」

「ひぐっひぐっ……」

「エフッ……エフッ……エフッ……」


かくいうボクも


「(ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お゛!)」


 この有様である。横からもすすり泣きが聞こえたので、チラッと見てみるとリコも


「ぴえええええええええん!」


 と泣きじゃくっている。兄妹だから泣きのツボも似ているのかもしれない。





「すごくよかったですね、兄さん!」

「うん、感動したよ!」


 映画館からの帰り道、2人で感想を言い合いながら帰宅する。


「最後に2人で滝に身を投げるところは涙なしでは語れませんでしたね……」

「そうだね。でも──」

「でも? なんです兄さん?」

「ボクだったら、あるかないか分からない来世に賭けるよりも、今ある妹との時間を大事にしたいなぁ。愛してるならなおさらね」

「ふぇ!?」

 

 リコの顔がボシュと真っ赤になる。まるでゆでダコだ。


「どうしたの、リコ?」

「い、いえ、なんでも……。もし、兄さんなら最後どうしていました?」

「そうだね。もしボクだったら2人で駆け落ちしてでも生きて、妹を愛して守り抜く……かな」

「あわわわわわわわわわわわわわわ!」

「だって世界に1人しかいない、かけがえのない妹だからね。世界だって敵に回してみせるさ」

「きゃあああああああああああああ!」


 リコが卒倒しそうになる。

「──おっと」


 ボクは慌ててリコを支える。


「(────これはもう、妹の私に対する間接的な告白なのでは!?)」


※違います。


「リコ、大丈夫? 疲れちゃった?」

「ふぇ?」


 ボクは妹をお姫様抱っこする。


「なななななななななななななな!?」

「待ってて、すぐにお屋敷まで運ぶから」


 ボクは妹を抱えて、俊足で屋敷まで運んで行く。


「着いたよ、リコの部屋」

「は、早いですね……」

「ゆっくり休むんだよリコ。何かあったらすぐボクに言ってね」

「は、はい……ありがとうございます。あの、兄さん……」

「ん?」


 リコは深呼吸をした。


「今日はとっても楽しかったです!」


 それはキラキラした太陽みたいなリコの笑顔だった。あぁ、サングラスをしていてよかった。そうでなきゃ、眩しすぎて直視できないから。


「うん、ボクも楽しかったよ! また行こうね、リコ」

「はい!」





《夜桜リコ視点》


「〜ってことがあったんですよ〜。そこで兄さんったら私をお姫様抱っこしてですね〜」


 私はアリスに映画館がどうだったかを聞かれたので、事の顛末てんまつをかいつまんで説明する。アリスはふむふむとうなずいている。


「(う、うらやましい! 私もお姫様抱っこされてみたいんだが!?)」



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