【学園回】執事、学園に行く

「さて、今日手に入れたこの卵どうしようかな……」


 大きい白銀の卵の前で、ボクは自室で1人で悩んでいた。


 お嬢様には「君が倒したのだから君のものだ」と言われたものの、卵なんてどうしたらいいのか分からない。


 ガタガタガタ!


「え? 反応……した? これ生まれるの?」


 しばらく様子を見てみると、その後はシーンとしている。


「もしもーし」


 ボクは試しにコンコンとノックしてみる。すると──


 コンコン!


 「うわぁ! ノック返ししてきた! こいつ只者じゃないぞ……」


 中々の知能指数を持った生物だとボクは推測する。


「多分、モンスターなんだよな……」


 ボクはうーんと悩む。モンスターだとしたら、周りに被害が及ぶ可能性もある。だとすると放っておく訳にもいかない。


「でも──」


 しかしこの子はまだ“産まれてもいない”のだ。


 犯罪者の子供という理由だけで、決して迫害をしてはいけないように、モンスターの子供という理由で、産まれる前に駆除するのはいかがなものだろうか。


「まだこの子が人に対して、害をなすと決まった訳じゃない……よね」


 でももし、人に対して牙を向くようなら、その時はボクが──


 さて、眠くなってきた。明日も早い。そうだ、最後に卵に質問をしてみよう。





「────温めますか?」


 ガタガタガタ! ふむ、反応あり。


「今日は卵を抱いて寝てみよう……かな?」





 私立明星わたくしりつみょうじょう学園。数百年の歴史と伝統を持つ、由緒ゆいしょ正しき名門校である。


 ボク達はそんな学園の校門前に下車し、3人で登校する。


「きゃああああああ! アリス様よぉ!」

「今日もお美しいですわぁ!」

「なんて麗しいんでしょう……」

「リコちゃーん! 今日も可愛いね!」

「リコちゃん、こっち向いてくれー!」

「みなさま、例の執事ですわ!」

「あの方が噂の……」

「要チェックですわね……」


 校門を抜けると生徒からの熱烈な歓迎を受けた。


「やぁ、みんなおはよう」


 お嬢様は慣れたもので、にこやかに生徒に手を振っている。辺りは生徒達はキャーキャーと黄色い声をあげている。


「例の執事様と目が合いましたわぁ!」

「なまらめんこいですわね」

「ドチャクソさわやかな顔でしたわぁ!」

「はぁ……ごっつたまらんですわぁ……」





 ボク達のクラス分けはアリスとリコが同じクラス。そしてボクは別のクラスだ。そのまま別れて、ボクは自分のクラスへと入ると──


 パンパンパンと激しいクラッカー音が教室に鳴り響く。


「──え?」

「「「「「リオ! チャンネル登録者数1000万人越えおめでとう!」」」」


 なんとクラスのみんながボクを囲んで、お祝いしてくれた。


「へへっ、クラスのみんなでよ、リオをお祝いしようって、メッセージアプリで計画してたんだぜ?」

「リオ、お前すげーじゃねーか!」

「チャンネル登録しといたぜ!」

「リオくん、カッコよかったよー!」

「俺もダンジョン配信者にいつか、なってみせるぜ!」

「今度、俺に修業つけてくれないか?」

「フン、やっと俺様と同じステージに立ったようだな……」


 クラスのみんなのサプライズに、思わずボクはうるっとくる。


「み、みんな、ありがとう。ボク、これからも頑張るよ!」

「へへっ、楽しみに待ってるぜ!」

「あんまり、無理しないようにね?」

「リオのあの伝説の黒刀、今度見せてくれよ」

「ねぇねぇ、写真、一緒に撮っていい? SNSに上げたら超自慢できるし!」

「リオくんの使った料理、今度食べてみたいなぁ……」

「フン、せいぜい足元をすくわれぬよう、気をつけることだ。我が永遠の宿敵よ……」


 クラスのみんなの声援に、心が温かくなる。ボクはいいクラスメイトに巡り会えたなぁ。


「そこまでですよ。はいみんな、席に着いて下さいね」

「「「「「はーい」」」」」


 如月きさらぎスイ先生がやってきた。美人でクールな性格で、男子生徒に絶大な人気を誇る。


「リオくんは、ちょっと先生のところまで来てくれますか?」

「あっ、はい」


 一体、なんだろう? すると先生は頬を赤らめながら、ヒソヒソと耳打ちをする。


「こ、今度、よかったらリオくんのサインをもらえませんか?」

「ボクなんかのサインでよろしければ、いくらでも!」

「やった!」


 先生は小さくガッツポーズをする。


「(配信のアーカイブ見ながら、キャッキャッしてるなんて、絶対に本人には言えませんね……)」





「すやすや……」


 ボクは卵を抱いて温めながら、就寝についていた。


 ピキピキッ!


「……ん?」


 ピキピキピキピキッ!


「……え?」


 パカーンという音と共に孵化うかしたものはなんと──



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