【ダンジョン回】執事、ボスをワンパンする
「だいぶ進みましたね、お嬢様」
ボクがちらりと腕時計を見ると針は12時丁度を指している。
「うん、モンスターの気配もないし、ここら辺で食事といこうじゃないか」
「わぁい! 兄さんの料理の時間です!」
腹ペコなリコがウキウキとしている。ふふ、待ちきれないのだろうな。
「リコ、結界を頼むよ」
「お任せ下さい、お嬢様。──聖なる光よ、降り注ぎ我らを守りたまえ『不可侵の結界』」
アリスに頼まれたリコは、モンスター探知用の結界を張る。これでモンスターの襲撃があった際には素早く行動できる。
「ありがとう、リコ。今からさくっと昼ごはんを作るからね」
ボクはポケットから、調理道具一式と素材を取り出す。今日はメインはスーパーコカトリスを使った鳥料理だ。
「──さて、始めようか」
ボクは流れるような手つきで、包丁を取り出し、調理に取りかかる。
トントントントントントントントン!
《調理はやww》
《目で追えねぇよww》
《どんな料理になるんだろ……》
♢
「お待たせしました、お嬢様。こちらスーパーコカトリスの“照り焼きチキン”となります」
「うんうん、ご苦労様。とっても美味しそうだね!」
「うわぁ、いい匂いですぅ!」
2人はテーブルの椅子に座り、そわそわしている。
「リオも座って一緒に食べよう」
「しかしお嬢様、ボクは執事──」
「執事と同時に、パーティーの仲間でもあるんだ。固いことは言いっこなしだよ?」
「そうですよ、兄さん! 一緒に食べたほうが美味しいですよ!」
「で、では失礼して……」
ボク達は食事を始める。
「うわぁ、外はカリカリ、中はジューシィ。甘辛いソースが、また絶妙に絡みあっている。うんうん、とっても美味しいぞこれは!」
お嬢様が目を輝かせて、喜んでいる。よかった、どうやらお口に合ったみたいだ。
「コカトリスの肉で、ご飯が無限に止まりません! 兄さん、おかわりを頂けますか!?」
「はいはい、全くリコはあいかわらずの食いしん坊だな」
リコはバクバクとコカトリスとご飯を頬張っている。
《すげぇうまそうww》
《ジュルリ……》
《リコちゃん、毎度毎度食いすぎだろww》
《なんで太らないんだ?》
《胸に行ってると思われ》
《飯テロやめろww》
《スーパーコカトリスなんてめちゃくちゃ貴重食材だからなww》
《うおー食いてぇ!》
♢
着々とボク達はダンジョンを踏破し、ついに最下層の手前──つまりダンジョンボスがいる直前のエリアまで辿りついた。
「リコ、ありったけの補助魔法をみんなにかけてくれるかい?」
お嬢様がリコに言う。
「承知しました。攻撃バフ、防御バフ、スピードバフ、全てをパーティー全員にかけます」
「ありがとう、リコ。力が沸いてきたよ」
ボクはリコに礼を言う。
「さて、確か情報によると、ここのエリアボスは白銀竜だったな。危なそうなら撤退する。みんな、くれぐれも無茶はしないでくれたまえよ?」
「「──承知しました」」
「フフッ、じゃあ行こうか」
《うおーついにボスか!》
《浅いダンジョンとは言え、これほどの踏破スピードとは……》
《ボスなんかやっちまえ!》
《気をつけてね、みんな!》
♢
最下層にたたずむは白銀竜。そしてその周りには、何十匹ものシルバーワイバーンが主を守るように飛び回っていた。
《うわあああああ、やべええええ!》
《シルバーワイバーン一体ですらS級モンスターだぞ!?》
《これは無理だ!逃げろ!》
《もう終わりだぁ……》
「ふむ、まずは雑魚散らしといこうじゃないか。────น้ำแข็งเลือดมา」
アリスが詠唱を始めると、気がついたワイバーンがアリスに殺到する。
「『“多重”アイススピア』」
氷で出来た何千本もの槍がワイバーンの群れを容赦なく、
『ギシャアアアアアアアアアアアアアア!』
「うんうん、中々の威力じゃないか! ドラゴンに負けっぱなしは癪だからね。鍛錬の成果が出たようだ」
《あの上位魔法を多重詠唱で!?》
《S級モンスターが粉々じゃねぇか!?》
《やはりこの世に七人しかいない“億超え配信者”の1人は違うな……》
《とんでもねぇな……》
《アリスお嬢様、お美しい……》
「さて、前座は終了。今日は君が主役だ。後は任せたよ、リオ」
「──承知しました」
ボクは黒刀をゆっくりと鞘から抜く。
『グオオオオオオオオオオ!』
仲間を
そして飛び上がったかと思うと、息を大きく吸い、特大のブレスを放ってきた。
《アレはやべぇぞ!?》
《避けろ執事!》
《うわあああああああ!?》
ボクは跳躍し、刀を
『グオオオオオオオオオオ!』
白銀竜はそのままボクを噛み砕こうと、迫ってくるが──
────ザン
『グオオオ……オ?』
ボクは一太刀で白銀竜を切り伏せる。すると、傷口から黒い炎が現れ、そのまま白銀竜を包み込み、跡形もなく燃やし尽くす。
『グオオオオオオオオオオ……』
《すげええええええええええええ!》
《白銀竜をワンパンwww》
《やばすぎでしょww》
《あの傷口から出た黒い炎……なるほど、アレは黒刀の効果ですか……》
《ワンパン気持ち良すぎだろ!》
「ご苦労様、リオ。さすが私の執事だよ!」
「ありがとうございます、お嬢様」
「兄さん、カッコよかったです!」
「そ、そうかな?」
────どすん。
白銀竜が倒されたところに巨大な金の宝箱が現れる。ダンジョンの踏破報酬だ。
「リオ、君が倒したんだ。君が開けたまえ」
「兄さん、早く!」
「分かりました」
ボクは宝箱をそっと開ける。そして中には──
「……卵?」
白銀の色をした巨大な卵がそこにはあった。
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