【ラブコメ回】執事、妹に恋愛相談される

「私がお嬢様に借りていた少女漫画“どすこい花太郎”を返しに行こうとしていたら、兄さんがお嬢様の部屋に入って行くのが見えたんです。そしたら怪しげな雰囲気になっている声が聞こえて……」

「それでついついのぞいてしまったと……?」


 コクリとリコは頷く。


「あのねリコ、普段、姉妹のように仲良くしてもらってるけど、のぞきはダメだ。後でお嬢様にしっかり謝っておくんだよ?」

「はい(だ、だって、兄さんが夜中にお嬢様の部屋に入って行ったのが気になったんだもん!)。えっとそれで、兄さんとお嬢様は……なぜキスを?」

「……」

    

 リコの角度からはそう見えただろうな。全部、正直に話してもいいけど、お嬢様に許可を取らずに結婚うんぬんの話をしていいものか……。


 いや、ちゃんと相談しないとだめだ。とりあえずはいったんごまかそう。ごめんな、リコ。


「キスじゃないんだよ」

「え?」

「リコの角度からはそう見えたかもしれないけど、あれはお嬢様がドラゴンステーキのニオイが気になるから、もう残ってないか、ボクがチェックしてたんだよ!」


 わ、我ながら苦しいか──?


「なーんだ、そうだったんですね! 言ってくだされば私がチェックしましたのに!」

「リコもたっぷりドラゴンステーキ食べたからね。同じニオイで感覚が鈍ってるとお嬢様は考えたんだと思うよ!」

「なるほど、なるほどですね!」


 ふぅ、リコがちょっぴり天然で助かったな。

 

「こころのモヤモヤが晴れました。じゃあ、そんな兄さんに相談したいことがあるんですが……」


 リコはためらいがちに、両手人差し指をつんつんとしている。


「ん、なに? 遠慮せずに言ってみなよ、ボク達兄妹だろ?」

「あの、その……恋愛相談……なんですけど」

「──え?」


 顔を赤らめながらリコは言う。


 あの真面目でクールな妹が恋愛相談……。色を知る年齢か……。兄としては複雑な気分だな……。なんだか脳が破壊されるような錯覚を覚える。


「あ、兄としてもちろん相談に乗るよ! 話してみなよ、リコ」

「ありがとうございます、兄さん!」


 パァッとリコの顔が明るくなる。


「私、好きな人がいるん……です」


 リコはチラリとボクの方を見る。


「へ、へえー、素敵なことだと思うよ? ちなみ誰なの?」

「い、言えないです!」

「ヒントだけでも!」

「と、とっても身近な人……です」

「もしかしてこの屋敷にいる?」

「は、はい……」


 そこでボクはピンときた。リコの身近にいて、この屋敷に住んでいる人間をボクは知っている。つまり、つまり──








 リコはアリスお嬢様に恋をしている!?


 ※リオもちょっぴり天然です。


 いや、まさかな。もう少し質問してみよう……。


「その人のどんなところが好きなの?」

「優しくてカッコよくて頼りになるところ……です」


 お嬢様のことだ……。


「年齢は?」

「同い年……です」


 お嬢様のことだ……。


「胸の大きさは?」

「胸? ありませんけど?」


 お嬢様のことだ……。


 ボクはガックリとうなだれる。


「に、兄さん!? どうしたの!?」

「は、ははっ……」


 まさか兄妹で同じ人を好きになるなんて……。なんてことだ。まるで昼ドラみたいじゃないか……。


「険しい道のりになるよ?」


 ボクは妹に真面目な顔をして問う。


「やっぱり誰のことか分かっちゃいましたか……。はい、覚悟の上です」


 そうか、ならばもう何も言うまい。


「リコ、君は君の思うようにしなよ」

「兄さん、それって……私の恋を」

「ああ、受け入れる」


 応援することはできないけど、リコが決めた道を否定することはできないから。


「あ、ありがとう、兄さん!」


 リコはボクに抱きついてきた。全く大げさだなぁリコは。


「兄さん、大好きです!」

「ボクも(妹として)大好きだよ」


 ボクは優しくリコの頭をなでる。


「えへへ、兄さん、もっとなでて下さい」

「全く、甘えん坊だなぁリコは……」

 

 リコはまるで猫のように気持ちよくなでられている。


「そうそう、ちゃんとアリスお嬢様に自分の気持ちを伝えるんだよ? リコ」


 そこでピタリとリコの動きが止まる。


「アリス……お嬢様?」

「うん、アリスお嬢様のことを愛しているんでしょ?」

「──え?」

「──え?」


 その場を静寂せいじゃくが支配する。


「あ、あれ? 違った?」


 リコの顔が赤くなりプルプルと震え出した。


「に、兄さんのおバカ〜!」


 リコはドタドタと部屋を出て行った。


「え? 違うの? じゃあだれ……?

近所のたかしくん?」


 ボクはその晩、延々と答えの出ない謎に、もんもんとしていた。

 


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