【ラブコメ回】執事、お嬢様に求婚される
夜中にアリスの自室に呼び出されたボクは緊張しながら、部屋へと向かう。
なんとなく心当たりがある。そう、あの邪竜退治の一部始終がアリスのスマホによって配信されていたのだ。
「お嬢様より目立ってしまった……」
執事とは陰ながらで主人を支える存在であると叩き込まれて育った。決して主人より目立ってはいけないのだ。
「お嬢様、リオです」
アリスの部屋の扉をノックをする。
「はいってくれたまえ」
「失礼します」
出迎えてくれたアリスはネグリジェに着替えていて、すっかり就寝前の格好になっている。
「お嬢様、この度は申し訳ありませんでした」
ボクは頭を下げる。
それを見たアリスは口をポカンと開けた後、クツクツと笑い出した。
「フフフッ、何を謝っているんだい、リオ? どうせ君のことだ。執事が主人より目立ってしまったことを気に病んでいるのだろう?」
「仰る通りです、お嬢様」
「頭を上げてくれよ、リオ。私の代でそんな古臭い慣習はなしだ。今日はありがとう、リオ。おかげで命拾いしたよ」
お嬢様は深く頭を下げてボクに感謝した。
「執事として当たり前のことをしただけです。お嬢様、頭を上げて下さい……」
「まぁ……とりあえず立ち話もなんだ。ここに座りたまえ」
アリスはぽんぽんと自分が座っているベッドの横を叩く。
「よいのですか?」
「ふふっ、遠慮しなくていいよ。おいで」
「では失礼して……」
ボクは遠慮がちにアリスの横のベッドに腰掛ける。座りごこちがとてもいい高級品だ。
「いきなりで悪いが、私と結婚しないかい、リオ?」
「!?」
ボクは吹き出しそうになるのを懸命にこらえる。
「いきなり過ぎるでしょ!? 冗談が過ぎますよお嬢様!」
「フフッ、冗談でもなんでもないさ。私は欲しいと思ったモノは手に入れる主義でね」
アリスの綺麗な紅い瞳が、真っ直ぐに輝いている。長年、アリスと連れ添ってきたから分かる。本気の瞳だ。
「フフッ、リオ」
アリスが顔を近づけてくる。そして、その唇とボクの唇の重なる瞬間──
「なーんてね。まぁ、結婚の話はとりあえず置いておこう。急ぐ話でもない。私も君もまだ未成年なのだからね。頭の片隅にでも置いてといてくれると嬉しい」
「びっくりさせないでくださいよ……」
「そうだ本題を忘れてたよ、リオ」
「本題ですか?」
「君も配信者にならないか?」
「え?」
「これだけバズってるんだ。やらない手はないと思うよ? フフッ」
♢
「勢いでOKしてしまったなぁ。まぁこれもいい機会かもしれない。カメラマンよりも配信者の方がお嬢様やリコをサポートしやすいし……」
ボクはとりあえず告知用の呟きアプリのアカウントを作ってみる。
「え〜と、なんて呟こうかな……。とりあえず、初カキコ…ども…──っと」
ボクは送信ボタンを押す。すると──
たかしさんを含む50万2000人があなたを新たにフォローしました!
たかしさんを含む4万8000人があなたの呟きにイイネしました!
スマホの通知音が鳴り止まない。そしてスマホの通知画面がずらり通知で埋め尽くされる。
「うわあ、スマホが壊れた!?」
びっくりしたが、なんとか冷静にスマホをマナーモードにする。
「うわぁ、まだまだ伸びてるよ……。そういえばさっき作った動画配信用のアカウントはどうなったんだろ……ってチャンネル登録者数150万人!?」
あまりの現実感のなさにめまいがする。
「う〜ん、今日は流石に疲れたな……。もう寝よう……」
♢
コンコンと控えめにドアをノックする音に目が覚める。
「はい?」
「リコです。兄さん」
「なんだリコか。入ってきなよ」
「夜分遅くに失礼します。兄さん」
「ドラゴンステーキどうだった、リコ?」
「大変美味でした。けぷ」
リコは結構な大食らいである。あの体のどこにそんなに食べ物が入るのだろうか。
「その、あの、私……」
リコは髪をくるくるといじりながら、ソワソワしている。
「どしたの話聞こうか?」
「あの、私、見ちゃったんです……」
「何を?」
「兄さんとお嬢様がキスをしているところです!」
「──え?」
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