[2] 探索
魔術とは何か?
絶えず積み重ねられた血統と技術の産物でありそのいずれかが欠けても成立しない。
わかりにくい言い方だ。よく魔術師の言ってるのを持ってきただけで私自身はいい定義だと思っていない。
要するに才能があって努力しないと身につかない代物だ。
ただまあこの言い方をしてしまうと世の中の大抵のものがあてはまってしまうような気がするが。
基本的に魔術師は魔術師の家系に生まれる。その上で幼少期から厳しく鍛えられることでようやく一人前の魔術師になることができる。
才能だけなら血筋とは無関係に持っている人もいる。けれどもそれを磨くための努力を十分にしていないから魔術師にはなりえない。
というか家族が魔術師でないとそんな技術を研鑽しようとはまず思わないだろう。
このあたりを指して機関は魔術について『万人に使用できるものではない』と言っているのだと思う。
具体的には何をやっているのか?
そこのところの考え方は機関内部でも派閥によって分かれている。機関外の個人魔術師に尋ねればさらに多彩な答えが得られるだろう。
私の理解では『自身の内部エネルギーを使用することで外部エネルギーに特定の指向性を与える』のが魔術である。わりとこれは現在の主流の考え方だと思う。
その外部エネルギーを確保するのに土地を守護するのが重要になってくる。
土地の持っているエネルギーは生物が持っているそれに比べて非常に扱いやすい。魔術というのはたいていの場合、土地の内在するエネルギーを上手に活用する方法である。
故に機関に保障された管理者が土地の治安維持を行うのは当然のことだ。例えそれによって金銭的な報酬が発生しないとしても。
魔術師にとって土地は魔術を行使するのにほとんど必須なものなのだから。
制服のままメイドを従え街を闊歩する。
もとより私は金色の髪と目立つ容姿をしているから人目を引いて仕方がないが気にしない。魔術師であることがばれなければ、だいたいのことはよしとしておこう。
地脈に沿ってエネルギーは循環する。その移動量はほとんど一定で、またそうして流れを作ることで、土地のエネルギーは安全性を保つ。
宮藤家では街の各所に計測器を設置している。役所等に許可は取っていないけど非魔術師には発見できないよう偽装を施してある。
得られたデータは屋敷に集められ常時監視できるようになっている。それらはただの数値に還元されているから魔術師でない晶子さんにも理解することができる。
エネルギーはいつもまったく同じように動いているわけではない。適当に揺らいでいる。
その揺らぎの範囲内ならほとんどの場合、問題はない。ただ稀にトラブルにつながることがあるから実際に足を運んでみることは大事だ。
向かうは学校の裏山のてっぺん。
山に入ったあたりで自然と晶子さんが前に出た。メイドの仕事の範疇かどうかは微妙なところだけれどやっぱり優秀な人だと思う。
「明菜様としてはどちらがいいのですか?」
晶子さんが突然問いかけてきた。
「何も起きてないのが一番だけど」
「あたり前です」
事件には外から魔術師によって持ち込まれるものと、自然に滞留したエネルギーが害を引き起こすものとがある。後者だとなんらかの事物に悪影響を及ぼしている。
「個人的には魔術師がかかわってる方が面倒かな。あれこれ法律に従わなくちゃいけないし」
「動物植物相手でも守らなくちゃいけない法律ありますよ」
「人間相手にするのに比べればぐっと少ないでしょ」
「私は人間じゃないものが相手の方がいやですね」
「なんで?」
「人間と敵対することを想定した格闘術を習得しているからです」
「なるほど、確かに私もなんだかんだ人間と戦うのを想定してるしね」
こんなことを話していたら予想していたことがそのまま起きるかもしれないのでやめておく。これは別段魔術とは関係ない、ただの迷信である。
本当に何も起きてないのが一番いい。
てっぺんが見えてくる。魔術師は測定器を使わずともエネルギーの変化を感覚できる。そういう訓練をしてきた。器械よりこっちの方が精度がいいと思っているが、それは私が魔術師だからかもしれない。
あー、この揺れ方はなんかいるなー。数値でいえば自然の範囲内なんだけどパターンがおかしい。経験上こういう時はなんかいると相場が決まっている。
嫌だなあと思うが、早めに叩いておいた方が楽だと思い直して気合を入れる。まだ日は落ちていない。うまくやれば今日中に終わらせられるだろう。
山の頂上、けやきの木の下にはでっかい蛇がとぐろを巻いていた。
大蛇はぱちりと左眼を開ける。真紅の瞳はまっすぐにこちらに向けられていた。
晶子さんは流れるような動作で颯爽とロングスカートの下からナイフを取り出す。その所作はいつ見てもセクシーだがそんなことを考えている場合ではない。
彼我の距離は約3M。相手の間合いは不明だがそれでも一瞬で勝負が決するといったような状況とは違うだろう。じっくりと観察する、私が大蛇を、大蛇が私を。
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