事実
世界最強の情報網は何か。
それは、アナログ・コミュニケーションだ。
自分の目で見て、聞いて、感じた事を仲間に話す。
あとは、聞いた人が信じるかどうかを決断するだけ。
ボクは同じ奴隷仲間の話を聞いて、大きく頷いた。
「つまり、この世界の女ってのは軍事に携わるのが義務化されてるんだ」
「徴兵と違うの?」
「全然違う。徴兵みたいに頭数だけ揃えてるのとは訳が違う。この施設の広さを見ただろう。訓練場がいくつもあるんだ」
褐色肌の大男。
名前は、ドゥウェインさんというらしい。
逞しい上腕二頭筋を見せつけ、ツルツルの頭には血管がいくつも浮かび、不満混じりに情報を提供してくれる。
「陸、海、空、電子、宇宙。あとは、何があったか」
汗だくのおっさん。――キュンポさんが代わりに後のことを説明した。
「工業とかも、ありましゅ。んまぁ、全部揃ってると思えば」
「へえ」
「アタリくん。くれぐれも、この世界で女の子に逆らおうなんて思わないことでしゅ。ドゥウェインさんは、あばらを折られたことがあるんでしゅよ」
「……へえ」
ムキムキの大男が骨を折られるって、よっぽど戦闘力あるじゃないか。
一体誰が、こんな大男をやっつけたというのだろう。
「以前、みんなで脱走をしようと試みたんだ。だが、甘かった。警察と一緒に、民間軍事まで動きやがった」
握りこぶしをテーブルに叩きつけ、悔しげに呻く。
「ボキも一緒に逃げましたが、ふひひ。一発で顎を砕かれました」
キュンポさんは笑いながら頭を掻く。
「ヤバいっすね」
「でもぉ、あの傭兵さん。すっごい綺麗でした」
「へえ。物々しい中にも花があるんですねぇ」
初めは怯えていたが、すっかり溶け込んだボク。
本当は飲めないのに、カッコつけて頼んだブラックコーヒーをチビチビ飲みながら、話を聞く。
「はいぃ。金髪でぇ。背がおっきくてぇ。キリっとした顔でぇ。ふふ。お尻がムッチリと大きいんですぅ」
「おお。良い女」
「でしょう? 名前は、何だったかなぁ。仲間の女性が呼んでるのを聞いたことがあるんですがぁ。う~ん」
キュンポさんが考えている間、ドゥウェインさんが再度忠告。
「いいか? 騒ぎは起こすな。この学校、学生とはいえ、機動隊いるんだからな」
「そうっすねぇ。来たときは、このやろって思いましたけど。うん。やめときます」
ボクはさっそくご主人を裏切った。
ああいうのは、先生に任せるべきだと思うのだ。
でも、イジメはダメ絶対、と考えてるので、気になったボクはドゥウェインさんに知恵を借りようとした。
「あの、でも、ウチのご主人。なんか、イジメられてるみたいで」
「名前は? 俺ぁここにきてから長いからよ。もしかしたら、知ってるかもしれねえ」
「フロリアーヌっていう子なんですけど」
待機所の面々が全員振り向いた。
時が止まったかのように、みんなが静止する。
そこで空気を読まずに、キュンポさんが静寂を声で突き破った。
「あ、イオさんだったかなぁ! あれ? どうしました?」
大きな手で肩を掴まれ、「お前、マジか?」と、聞かれた。
訳が分からないボクは何度も頷く。
「フロリアーヌっていえば、校内で一番の不良だろ」
「やんちゃ娘ですかね?」
ボクの抱く不良と言えば、元の世界にいるような『オラオラ系』である。ところが、話を聞くと、海外勢の不良はレベルが違った。
「あいつ、確か、ジンの主人に風穴空けたよな?」
ジン、と呼ばれた男は肩を竦める。
顔中がピアスだらけのチャラ男だ。
「喧嘩で、腹を撃たれて、救急室に運ばれた」
「校内で手術を受けて、一命を取り留めたんだ」
――あいつ、何やってんの?
「他にも悪さばかりしてるから、みんなから疎まれてるんだよ。憎しみさえ抱かれてる。でも、怖くて、誰も近寄れないんだ」
「え、今朝、思いっきりイジメられてましたけど」
「殴ったりはしてないだろ? あのな。ここ、ほとんど軍事基地と同じだぞ。体罰は当たり前。女は野郎みたいだし、すぐに手が出るんだよ。手を出したら、暴力で仕返しされるから、みんなヒヨるんだ」
詳しく説明をされ、ボクは天井を見上げた。
どうやら、マシだと思っていたボクの主人。
実は、相当ヤバいやつだということが判明した。
「あー、なんか、あれだな。マスコミの偏向報道みたいな感じだなぁ。一部だけ見てたら、全然分からなかったわ」
どうりで、全員が笑ってばかりで、近寄らないわけだ。
巻き添えを食いたくないのだ。
ボクはブラックコーヒーをキュンポさんの飲んでるジュースとさりげなく交換し、どうやって復讐を下りるか考えだした。
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