分からせ

 連れてこられて、半日は経過しただろうか。

 ボクはさっそく奴隷売買され、大きな女の人に買われることになった。

 店の中に入ってきた女の人は、終始威圧的な態度で店員と話している。


「名前は坂田アタリ。日本人です」

「……なるほど。珍しいな」

「ええ。2023年の日本人ですので、価値はありませんが」


 などと、話していた。

 ボクを連れてきたお姉さんがズカズカと近寄ってくると、至近距離でジロジロと見てきた。


 ――でけぇ。


 外国の人って、とんでもなく大きいけど、女の人まで大きいから驚き。

 ボクが身長153cmなのに対し、目の前の女の人は身長190cmはある。


 身長が高いので、ジーンズ越しに大きな尻がパッツパツ。

 腰回りが太くて、一言で表すのならガタイが良かった。


 だけど、ボクの隣にいたおっさんが言っていたように、本当に美人だった。長い金髪は三つ編みにしているのか、それをグルグルと巻き、後頭部で留めているのが分かる。


 肌は白く、目の彫りは深い。

 青い目が印象的で、冷たい眼差しさえ、美しいと感じた。


「イオ・ローランドだ。よろしく」


 手を差し出され、ボクはイオと名乗ったお姉さんを見上げた。

 体を斜めに傾け、カウンターにいるお姉さんを見る。


「すいません。先ほど連れてきたばかりで、教育が行き届いておらず」

「問題ない。こっちで説明する」


 ボクは彼女たちの会話を聞いて、怒りがふつふつと湧いてきた。

 人を拉致し、まるで商品のように扱う所業。

 許してはいけない。

 こういう輩がいるから、悲劇が終わらないのだ。


 ボクだって、日本男児だ。

 舐められては困る。


「来い。あたしが今日から、お前の飼い主だ」


 差し出された手を握らず、ボクは後ろに下がる。

 タダでは転ばない。

 ファイティングポーズを取り、「ふーっ」と息を吐きだした。


「おぉ。活きが良いな」


 なぜか、イオさんは嬉しそうな反応を示した。


 きっと、周囲の男たちはもちろん、他の連中はボクがおかしくなったと思うに違いない。

 それは違う。

 ボクは、卑劣な真似が許せないだけだ。


「ボク、……負けませんけど」

「ほう」


 時代を無視したストロングスタイル。

 悪意を込めて、ボクはイオさんを蔑んだ。

 相手は所詮、女だ。

 尻を叩けば泣きわめき、この世で最も弱い生き物。


 心の中で蔑むことで、ボクは自分に喝を入れた。


「来いよ。メス――」


 言い終わる前に、ボクは天井を向いていた。

 僅かな時の中で、浮遊感を味わう。

 遅れて気づいたが、ボクの両足は床から離れていた。

 フルチンのまま、空中でひっくり返り、直後に頭部へ強い衝撃が走った。


「ごぇ!」


 頭を打ったせいで、耳鳴りがした。


「こいつ、いくらだっけ」

「2万です。お気に召さないのであれば、他に調教済みの奴隷がいますけど。そちらは、”50万テリ”です」


 首根っこを片手で押さえられたボクは、必死に手をタップした。


「あ、あが、……ぐるじ」

「ふん。こいつでいい」

「では、こちらの契約書にサインを」

「その前に、首輪をくれ」


 カウンターのお姉さんは肩を竦め、どこかに行った。

 それから顔をこちらに向け、冷たい目つきで言うのだ。


「可愛がってやる。覚悟しろ」

「……ふう、ふぅ。……ぼ、ボクは、……ま、まけ……負けな……」


 何度も自分の中で女を蔑む。

 蔑む力がボクの中に芽生えてくる恐怖を紛らわせた。


 ――メスは無力。メスは最弱。


 思っている間に、ゴリラみたいな握力で、ギリギリと締め付けられていく。


 ――メスは、……歩く発情期。やべ、息が……。


「家に着いたら、お前の股にぶら下がっているものをミキサーにかける」

「ッ⁉」

「まあ、お前のいた時代より発展しているから安心しろ。形だけは治してやる」


 メスゴリラの一言は、ボクの心をいとも容易く打ち砕いた。


「え、や、やめてください!」

「何を?」

「ミキサーとかグロすぎます! ほんっとやだ!」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい!」


 乱暴に手を離され、すぐに距離を取った。

 なんてことだ。

 異世界の女は、血も涙もないメスゴリラだったのだ。

 怖くて手足が震えてくる。

 ていうか、本当に怖い。

 発想が怖い。


「しつこければ殺すが、一言、二言くらいなら、蔑むことを許可してやるよ。何とも思わんからな。……だけど、あたしの時間を邪魔するなら、肛門に熱した鉄球を入れる」


 こいつ、頭ヤバくね?

 何言ってんの?


 メスゴリラがメスのくせにイキり散らかすので、ぶちキレたボクは言ってやった。


「おっけ」


 天使のような笑顔をイメージして笑ってやった。

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