男をさらう理由

 あれだけ心の中で罵詈雑言を吐き出したのに、結局ボクは長身の女に負けて、奴隷契約を結ばれた。


 首には革と鉄で作られた変な首輪をされている。

 シンプルなパーカーとズボンを履かされて、店の前に停められた車に乗らされた。


「わあ」


 ウィンドウ越しに、たくさんの男がボクを見ていた。

 羨望の眼差しなのか。

 嫉妬の眼差しなのか。

 哀れみか。


 ボクには判別できないけど、彼らの視線に背を向け、車の椅子に座る。

 車は車で、変な造りをしていた。

 リムジンみたいに、座椅子が横長で、向かい合う形。

 見たところ運転手はいないようだが、運転席で何か操作をしていたところを見るに、住所を入力しているみたいだった。


 店の中といい、車といい。

 女の人たちが身につけているものといい、その全てを見たボクの頭には、ある言葉が浮かんだ。


 ――近未来。


 テクノロジーは明らかにボクのいた世界より発展している。

 なのに、やっていることは奴隷売買。


「あ、あの」


 向かいの席に座ったイオさんは、懐からリボルバー式の大きな拳銃を取り出し、「なんだ?」と視線を向けてくる。


 銃はアナログなんだな。


「奴隷って何をすればいいんですか?」

「簡単な家事と炊事、掃除。妹の遊び相手だ」


 おっさん、言っていたな。

 性奴隷うんぬんって。

 言葉だけ聞けば、男にとって夢のある風に聞こえるかもしれない。

 だが、もしも、とんでもない性癖の持ち主だったら、ボクは生きて帰れないだろう。


「こんなの、おかしいよ」


 どうして、人類は過ちを繰り返すんだ。

 人を蔑むことは、あってはならない。

 ボクは親にそう教育をされてきた。


 さっきまでメチャクチャ女の人を小馬鹿にしていたけど、許されない事なんだ。


「何で、奴隷売買なんか……」

「君のいた世界では、まだ男が一定数いただろう」

「へ?」

「こっちの世界はね。過去に遡って連れてきたところで、男の数は千にも満たない」


 言ってる意味が分からなかった。


「女の数は5億人を超えた」

「へ、へえ」

「女同士で子供を作る奴らは、そもそも男に興味がないから、必要はない。だが、男手が必要な所はあるんだ」


 何やら、ぶっ飛んだ話をしているが、頭に入ってこなかった。

 イオさんの後ろでは、窓越しに移り変わりゆく景色が見える。

 何となく日本っぽい面影があるのに、ヨーロッパの街並みが混ざっているような、奇妙な世界だった。


「妹の犬になってくれたら、ある程度の自由は認める」

「もしも上手くできなかったら?」

「殺す」

「ふふ。おっけ。了解。全力で励むよ」


 手の震えを誤魔化すために、ボクは手首に爪を立てた。

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